職場の不正を防ぐ、もっとも簡単にしてエビデンスのある方法があった

職場の不正を防ぐ、もっとも簡単にしてエビデンスのある方法があった

人は、嫌悪感をおぼえると不正をしたくなってしまうという

 こんにちは。微表情研究家の清水建二です。

「イライラして機嫌の悪い上司には近づかない」

 イライラの火の粉が関係ない自分に降ってこないようにする。オフィスあるあるです。

 こうした上司は自分のイライラの長引く影響を意識せずに行動してしまい、普段より周りに厳しい指示をしてきたり、理不尽なことを要求するかも知れません。

 感情とその直後の行動とは密接なつながりがありますが、本ケースのように感情が直後の行動を越えて、知らず知らずのうちに後々の私たちの行動に影響を与えることがあります。

 本日は、いわば、こうした感情の余韻が引き起こす影響について嫌悪感情をテーマに、嫌悪の余韻が引き起こすズル心性とズルを防止する方法を提案したいと思います。

 結論から書きます。会社に、職場に、チームに嫌悪感が漂っていたら、あるいは嫌悪を感じている自分がいたら、仕事の手を一旦止めて、石鹸で手を洗いに行きましょう。

 チームの作業中なら一旦ブレイクして、綺麗な写真を観たり、作業している部屋に「ザ・清潔な香り」と呼べるような香水を置いたり、オフィスの空気清浄機の設定を強にしましょう。窓を開けて空気の入れ換えをしてもよいでしょう。

◆嫌悪が残っているとズルをしたくなる?

 なぜそう言えるのでしょうか。

 それは、私たちは嫌悪を抱くと「ズル」をしてしまう心性に陥ってしまうからです。「ズル」といっても色々ありますが、職場に限定すれば、同僚より休憩をこっそり多くとる、チーム作業の貢献度を実際より多く申告する、同僚の功績を自分の功績だとウソをつく……この辺はまだかわいいでしょうか。

 裏付けのないデータを裏付けがあるかのように言ってしまう、学歴を詐称する、水増し請求する、脱税する……だんだん犯罪になってきました。

 私たちが嫌悪感を抱くとき、私たちは自己保身のための行動をとる傾向にあることがわかっています。Winterichら(2014)が興味深い実験を行っています。

 実験参加者らを2つのグループにわけます。

 一方の実験参加者らには嫌悪を刺激するような映像を観てもらい、もう一方の実験参加者らには感情的に中立になるような映像を観てもらいます。

 映像視聴後、実験参加者らにはそれぞれのパートナーが割り振られます。それぞれのパートナーは匿名で誰が自分のパートナーかはわかりません(※)。

 パートナーが決まった後、実験参加者らは実験の報酬として次に示す2つのオプションがあることが知らされます。なお、研究者からそれぞれのパートナーにこの情報が知らされないことを実験参加者らは知っています。

オプションA:あなた(本実験参加者のこと)が2ドル得て、パートナーは3ドル得る
オプションB:あなた(本実験参加者のこと)が3ドル得て、パートナーは2ドル得る

 そして次に、実験参加者らは、自分のパートナーに次に示すメッセージの一つを匿名で伝える権利があると伝えられます。

メッセージ1:オプションAの方がBよりも(パートナーのあなたは)お金がもらえる
メッセージ2:オプションBの方がAよりも(パートナーのあなたは)お金がもらえる

 実際には、オプションBは実験参加者が3ドル得て、パートナーは2ドルなので、メッセージ2はズルすなわちウソということになります。

 実験の結果、中立映像を観た実験参加者に比べ、嫌悪映像を観た実験参加者の方が、メッツセージ2を選択する傾向にありました。より具体的に書くと、中立映像を観た実験参加者の35%が、嫌悪映像を観た実験参加者の67%がメッセージ2(ズル・ウソ選択)を選択しました。

 興味深いのはここからです。

 次の実験では、新たに集められた実験参加者らに先と同じ実験を行うのですが、パートナーを決める前に一つの作業を挟みます。

 その作業とは次の通りです。

 動画視聴後の実験参加者らを二つのグループに分け、一方にクリーナーなどの清掃用品の評価をしてもらい、もう一方に清掃とは関係のない品物の評価をしてもらいます。

 その後パートナーを決め、先の実験と同じメッセージ1あるいは2をパートナーに伝える段階に移ります。

 実験の結果、清掃用品を評価した実験参加者らは、嫌悪映像を観ていようと、中立映像を観ていようと、それぞれ35%及び43%(統計的には同じレベル)しかメッセージ2(ズル・ウソ選択)を選択しませんでした。

 一方、清掃用品とは関係ない品物を評価した実験参加者らは、嫌悪映像を観ていた場合53%が、中立映像を観ていた場合30%が、メッセージ2を選択しました。

 なんと、清掃用品にしばらく触れる(観る・感じる)だけで嫌悪に伴う行動が変化したのです。つまり、清掃用品がズル行動を減らしたのです。

 嫌悪感を低減させたり、払拭させたりするのに、具体的などんな行動や環境づくりが必要なのかこの研究は明らかにしていませんが、清掃用品というきっかけだけでこれほどの変化が起きることから、冒頭で提案した方法――身を清潔にする行動と綺麗な環境づくり――でズル心性を洗い流すことが出来るのではないかと考えられます。

 気持ちのきりかえには、適切な行動変化を。

(参考文献)
Winterich, Karen Page and Mittal, Vikas and Morales, Andrea, Protect Thyself: How Affective Self-Protection Increases Self-Interested Behavior (July 16, 2014). Winterich, K., Mittal, V., & Morales, A. Protect Thyself: How Affective Self-Protection Increases Self-Interested Behavior. Organizational Behavior and Human Decision Processes, Forthcoming.. Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=2467034

【清水建二】
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。
<写真/ぱくたそ>

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