ツアー通算44勝目、「これぞ、ミケルソン」の勝ち方【舩越園子コラム】

ツアー通算44勝目、「これぞ、ミケルソン」の勝ち方【舩越園子コラム】

ツアー通算44勝目を果たしたフィル・ミケルソン(撮影:GettyImages)

「これぞ、フィル・ミケルソン」――マンデーフィニッシュとなった「AT&Tペブルビーチ・プロアマ」を制し、48歳にして米ツアー通算44勝目、大会5勝目を挙げた彼の姿を眺めながら、大勢のファンがそう感じたのではないだろうか。


日没が迫っていた前日の夕暮れどき、上がり2ホールのプレーを続行するか、月曜日に持ち越すかで、最終組のフィル・ミケルソン(米国)とポール・ケーシー(イングランド)の意見が分かれた。絶好調だったミケルソンは続行して首位のまま走り抜けることを望んだが、ケーシーは「ラインが見えない。(日没まで)あと6分で2ホールを終えるのは無理だ」。

結局、ミケルソンはケーシーの主張を渋々受け入れる形になり、あからさまに不機嫌な顔。それでもTVインタビューではなんとか気を取り直し、「明日、きれいなグリーンでプレーするほうがいい」と言ってはいたが、「本当は今日フィニッシュしたかった」と諦めきれない様子も見せていた。そんなミケルソンを気遣い、ケーシーはその後に「ごめんなさいコール」までしたという。

だが、すべての心配は杞憂となり、ミケルソンは一夜明けた月曜日も好調なゴルフを保って、3打差で快勝。すると彼は「昨日、無理に続行しなくて良かった。今朝、きれいなグリーンでプレーできて良かった。ポールは彼自身と僕を守ってくれたんだ」。

「超」が付くほどのお調子者ぶりで、まさに「これぞ、ミケルソン」だが、それでもみんなが笑顔で頷き、「良かったね」「おめでとう」と祝福したくなる。

そのワケは、彼の驚くほどの向上心とたゆまぬ努力をみんなが知っていて、気合いが入っているときほど彼の喜怒哀楽が激しく出る性格もわかっているからだろう。

今年6月で49歳になるミケルソンは、やがては訪れるシニア入りや現役引退を見据え、通算50勝を目標に掲げて新たな試みに着手している。

まず、ミケルソン自身が生体力学を勉強し、その理論に則ってアイアンショットやパットの練習方法からスイング、ストロークすべてに改良を施した。

昨年末から新しい栄養士を雇い、食事の徹底的な見直しと肉体づくりに取り組んでいる。さらに、ジムで鍛え直したら、スイングスピードは驚異的に向上。今年のキックオフ戦となった「デザートクラシック」でいきなり優勝争いに絡んだのは、そのたまものだった。

しかし、あのときは3日間首位を走りながら惜敗。2戦目の「ウェイスト・マネージメント・フェニックス・オープン」は気合いが入り過ぎ、空回りして予選落ち。だからペブルビーチでは、勝ちかけて負けるわけにはいかず、空回りに終わるわけにはいかず、どうしても勝ちたくて、その気持ちが先走りして、日曜日は日没が迫る中、「プレーを続けたい」と言い張ってしまったのだ。

「昨日は好調なまま続けたい、フィニッシュしたいという一心だった。僕はときどき全体が見えなくなってしまうんだ」

そんなミケルソンだからこそ、人間臭くて、愛らしくて、ファンは彼が大好きなのだ。だからこそ、たった2人だけの2ホールだけのマンデーフィニッシュを見るために、月曜日の朝から大勢のファンが集まったのだ。

日曜日から月曜日にかけて“いろいろあった”優勝争いだったが、勝利の直後に明かした話も「これぞ、ミケルソン」だった。

ミケルソンはポケットの中からシルバーの1ドルコインを取り出し、家族の秘話を語り始めた。その昔、彼の母方の祖父は「家計を助けるために小学4年生から働きに出た」。祖父はポケットの中にいつも1ドルコインを1つだけ忍ばせ、「ポケットに入れた手がコインに触れるたびに、お金はある、貧しくなんてないんだと思うことができた」。

ゴルファーになるきっかけを作ってくれた祖父の人生と想いを一緒に抱き、勝利を渇望していたミケルソン。感情的になる面があり、視野が狭まることも判断を誤ることもあり、臆面もなくお調子者ぶりを披露することもあるのだが、いつだって彼は正直で真摯(しんし)。だからこそ、「やっぱりナイスガイだよね」とみんなが思う。

これぞ、フィル・ミケルソン――彼が20数年間、国民的スターであり続けている所以である。

文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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