Amazon・ベゾスの新型ロケットが売れたワケは、「大は小を兼ねる」にあり

Amazon・ベゾスの新型ロケットが売れたワケは、「大は小を兼ねる」にあり

ブルー・オリジンが開発中の「ニュー・グレン」ロケットの想像図 (C) Blue Origin

 Amazon創業者ジェフ・ベゾス氏の宇宙企業「ブルー・オリジン」は2019年1月31日、カナダの衛星通信大手テレサットから、開発中の大型ロケット「ニュー・グレン」による衛星の打ち上げ契約を受注したと発表した。

 既報のとおり、ニューグレンはまだ開発中で一度も飛んだことがないにもかかわらず、すでに打ち上げの受注や交渉を何件も取り付けている。その背景には、ベゾス氏や同社への信頼、期待の大きさなどの要因があったが、今回さらにもうひとつ、「ニュー・グレンが大きいから」という新たな価値が証明された。

◆ブルー・オリジンとニュー・グレン

 ブルー・オリジン(Blue Origin)は、Amazonの創業者として、そして世界一の大富豪としても知られる、ジェフ・ベゾス氏の宇宙企業である。

 同社は現在、高度100kmの宇宙空間に人や実験装置を打ち上げる小型ロケット「ニュー・シェパード(New Shepard)」と、人工衛星を打ち上げられる大型ロケット「ニュー・グレン(New Glenn)」の2つのロケットを開発している。同社は「人類が宇宙に進出し、活動の場にする」という目標を掲げており、両者とも機体を再使用することで打ち上げコストを大幅に低減することで、その目標を叶えようと目論んでいる。

 現在までに、ニュー・シェパードは無人ながらすでに飛行実績があり、早ければ今年中にも有人飛行、そして宇宙旅行を行う予定とされる。一方のニュー・グレンは、まだ開発中で、機体は影も形もない。

 同社にとって最大のライヴァルである、イーロン・マスク氏率いる宇宙企業「スペースX」は、すでに大型ロケット「ファルコン9」の打ち上げに何度も成功し、機体の再使用にも成功。さらに超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」の打ち上げにも成功するなど、実績の差は大きい。

 にもかかわらず、ニュー・グレンはすでに、フランスの大手衛星通信会社ユーテルサットや、宇宙インターネットの展開を目指すワンウェブ、そして日本の衛星通信会社スカパーJSATから打ち上げの受注や、打ち上げに向けた交渉を取り付けるなど、ビジネス面ではロケット・スタートを切っている。

 その背景には、ブルー・オリジンとニュー・グレンに対する信頼と期待の高さがある。まず世界一の大富豪であるベゾス氏の企業であり、さらにベゾス氏は毎年10億ドル相当のAmazonの株を売却し、ブルー・オリジンに投入すると表明していることから、倒産はまず起こらないどころか、今後も成長を続ける見込みが高い。

 また、他社から経営面、技術面で経験豊かな人材を引き抜いており、それもあってかニュー・グレンの開発も、多少の遅れはあるものの、比較的順調だと伝えられている。加えて、ニュー・グレンに装備されるロケット・エンジンは、米国のロケット大手のユナイテッド・ローチン・アライアンス(ULA)が開発する、米国の次期基幹ロケット「ヴァルカン」にも採用されることが決まっており、その点からも折り紙つきといえよう。

 さらに、価格面でも他の現行ロケットよりも比較的安価な金額を提示しているとされる。おまけにスペースXは、すでに多数のバックオーダー(打ち上げの予約)を抱えており、いまから注文しても打ち上げ日が当分先になることから、できるだけ早期に衛星を打ち上げたい企業にとって、新参者であるブルー・オリジンがむしろ魅力となっているといわれる。

◆テレサットがニュー・グレンを選んだわけ

 そして今回、カナダの衛星通信大手テレサットが、ニュー・グレンに打ち上げを発注したことで、もうひとつの価値が証明された。

 テレサットが打ち上げを依頼したのは、同社が展開を予定する衛星インターネット計画「テレサットLEO」を構成する、小型衛星群である。これは、大きなロケットで小さな衛星を大量に打ち上げ、さらにそれを繰り返し、地球を覆うように衛星を配備して、宇宙から世界中にインターネットをつなげようという壮大な計画である。

 この場合、ロケットに搭載できる衛星数が、多ければ多いほど、衛星1機あたりの打ち上げコストを小さくでき、全衛星をより安価に打ち上げ、配備することができる。

 そしてロケットの打ち上げ能力は、主に搭載できる(打ち上げられる)衛星の質量と、そしてロケットの先端にある衛星を搭載する部分の大きさ――「フェアリング」と呼ばれるカバー部品の大きさによって決まる。

 そこにおいてニュー・グレンは、直径7m、全長は100m近くもある超大型ロケットなので、打ち上げられる質量は最大45トンときわめて大きい。この能力は、スペースXのファルコン・ヘヴィには劣るものの、現在の水準からすると十分以上に強大である。

 さらに、その大きな機体のおかげで、フェアリングのサイズ、そして容積も世界最大をほこる。この点は、ファルコン・ヘヴィと比べると2倍以上も大きい。つまりテレサットLEOのように、軽くて小さな衛星を一度にたくさん打ち上げる場合、ニュー・グレンはまさにうってつけである。

 事実、テレサット側は、ニュー・グレンを選んだ理由に、打ち上げ能力の大きさと、そして巨大フェアリングにあったことを強調している。またブルー・オリジン側も、「その強大な打ち上げ能力と巨大なフェアリングによって、衛星1機あたりの打ち上げコストを削減でき、テレサットLEO計画にとって最適である」とアピールしている。

◆ニュー・グレンがデファクト・スタンダードになるか

 さらに、フェアリングが大きいということは、これまで存在しなかったような、巨大な衛星を搭載することも可能になる。たとえば巨大なアンテナをもった通信衛星や、大きな口径の宇宙望遠鏡など、その可能性は計り知れない。

 とくに前者は、通信衛星のコストパフォーマンスの大幅な向上につながる可能性があり、ブルー・オリジンも積極的にアピールしている。今後、ニュー・グレンのフェアリングの大きさに合わせた、規格外の大きさの衛星が出てくるかもしれない。

 さらにスペースXも、現在開発中の巨大ロケット「スターシップ/スーパー・ヘヴィ」では、直径9mの機体でもってして、ニュー・グレンよりもさらに広い衛星搭載スペースを提供しようとしている。

 一方で、日本を含む、それ以外のロケットにとっては、こうしたニュー・グレンやスターシップによる打ち上げを前提とした巨大衛星が「デファクト・スタンダード(事実上の標準)」になると、大きな脅威となる。

 フェアリングの大きさは、ロケットの機体の大きさに左右される。機体直径よりも多少大きなフェアリングを装着することはできるが、空力のバランスなどの問題などから限度がある。従来からあるロケットのほぼすべて、そして日本や欧州などが開発中の次世代ロケットも、機体の直径は4〜5mほどなので、直径7m以上もの巨大なフェアリングを積むことは難しい。

 つまり、巨大フェアリングによる打ち上げを前提とした衛星が登場してくると、それに対応できないロケットは、衛星打ち上げ市場において、ニュー・グレンやスターシップと同じ土俵にすら立てないということも起こりうる。

 実際、衛星の大きさや性能は、その時々において主流となるロケットの性能に合わせて設計、開発される傾向がある。たとえば欧州の「アリアン5」ロケットがシェアの半分をにぎっていた2000年代は、アリアン5による打ち上げを前提にした設計の衛星が多かった。

 しかし、アリアン5より安価なスペースXのファルコン9が登場した昨今では、アリアン5よりも衛星側の負担が増える(搭載する燃料の増加など)にもかかわらず、ファルコン9による打ち上げを前提にした衛星が多く登場している。つまり、負担増を加味しても、ファルコン9で打ち上げたほうがトータルでは安く済むといったメリットが生まれたことから、衛星会社がそちらを好み始めたのである。

「大は小を兼ねる」ということわざは有名だが、実際の生活に置き換えると、必ずしもそうではない場合や、適応できるにしても限度がある場合が多い。

 では、ロケットにおける、”強大な打ち上げ能力と巨大フェアリングをもつロケットで、大きな衛星や小さな衛星をたくさん打ち上げる”という用例は、はたして今後、どこまで通用することになるのだろうか。

<文/鳥嶋真也>

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

Webサイト: Космоград
Twitter: @Kosmograd_Info

【参考】
・Blue Origin | Blue Origin to Launch Telesat’s Advanced Global LEO Satellite Constellation
・Blue Origin’s Powerful New Glenn Rocket to Launch Telesat’s Advanced Global LEO Satellite Constellation | Telesat
・More Volume More Value – BLUE ORIGIN & HARRIS CORPORATION
・Blue Origin | New Glenn
・Telesat LEO – Why LEO? | Telesat

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