ガンダムが30年ヒットした秘密1(富野由悠季監督に聞く)
2009年8月26日(水)13時10分配信 ゆかしメディア
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東京・お台場の潮風公園。早朝の日の出とともに、陽光を浴びて姿を確認できる高さ18メートルの巨大な物体。時刻は午前5時すぎにも関わらず、この大きな物体を見ようと、すでに人が集まっている。約1時間を経過する頃には、1000人を下らないであろう人たちが記念撮影をしたり、物体を見上げている。
この巨大は物体の正体はガンダム。思えば、TVアニメ「機動戦士ガンダム」が放送されて今年がちょうど30周年にあたる。18メートルのガンダムは、緑あふれる都市再生とまちづくりの運動「ガンダムプロジェクト」のシンボルとして、メッセージを発信する役割を担っている。
TV放送が始まったその当時、小学生だった少年たちは40歳代となり、バブル景気、失われた10年など、幾多の荒波を乗り越えて日本を支えている。しかし、人気は衰えることなく、等身大の巨大ガンダム出現という一種の社会現象まで生み出しているのだ。
30年の時を経た今となっても、なぜ人気を維持し、なおかつ次々と新しい世代をひきつけるのか。その魅力の根源は何なのか。たかが、アニメと言うなかれ。この裏側には、ロングセラーの作り方の秘密が隠されているのではないか。製作総指揮者の富野由悠季氏に聞いた。
■手塚治虫氏を否定
まず、30年前に初めて見たガンダムの感覚。読者の皆さんは思い出すことができるだろうか。言葉にはならないが、これまでの日本のアニメにはない「何か」を感じ取ったのではないだろうか。日本の漫画界の父と言えば、やはり故・手塚治虫氏。その手塚氏のアニメ製作会社「虫プロダクション」に、富野由悠季氏は籍を置いた。原点はここにあった。
「別に手塚先生のファンだったわけではなく、大学を出他に就職先がなく拾ってくれたからです。虫プロは当時、動かない絵で20分くらいの番組を作っていたのです。ディズニー映画はなぜ動くのか? そんな所でしか働けないという自分を情けないと思うこともありましたね」
ディズニー映画は日本のアニメにはない多彩な動きをする。 まだまだ日本のアニメの黎明期でもあり、世界には程遠いと感じていた。やがて富野氏にもストーリーを決定する権利を得た。仕事をするにあたり、児童文学書のハウツー本を読み込んだという。そこで得たものがあった。
「その子にとって大事なことを、大人が全身全霊で語れば、その子供は絶対に思い出すことができる。誰の何の本かは覚えていませんが、そんなフレーズを今でも覚えています。アニメに関わるならば、うそをつくな。作家の全身全霊を掛けろといいたい」
全身全霊を傾ける。当たり前のことかもしれないが、自分の心に火をつけた富野氏は、ロボットアニメというジャンルを選んだ。このジャンルを選ばなければ、ガンダムはこの世に生を受けることはなかった。
■宮崎駿氏の方が作家としては上?
「鉄腕アトム」「鉄人28号」などは、言わずと知れたロボットものだ。だが、あまりメジャーなジャンルではなかった。富野氏が選んだのはなぜか? あまり誰もやりたがらなかったということで、まだまだ開発の余地が大きかったのだという。
「巨大ロボットものの専門家の道を選んだのは、オリジナルストーリーを作ることができるからです。生活費をもらいながらストーリーを作る練習を毎日できるという魅力的な職場です。必ずしもこのジャンルが好きで来ているわけではないんです」
ロボットのジャンルで30年もの間、第一線で活躍し、そして、ガンダムはいまだにヒットし続ける。どんなストーリーも描ける、という自負も持っている。だが、同世代の宮崎駿氏には、勝てないと思っているようだ。
「オスカーを獲った彼は作家です。僕は作家ではないということなのか、これは能力の差としか言いようがないですね。宮崎駿のようになれないのだから」
しかし、富野氏は日本を代表するアニメ監督として、今年のロカルノ映画祭では名誉豹賞を受賞。海外でも大きな評価を得た。どちらが上ということは断言できない。それは、ファンそれぞれが決めることだから。
■ロボットアニメは子供向けって誰が決めたの?
これから作る作品がヒットになるかならないかは、当の本人にさえわかるはずはない。ましてや、そでが超ロングヒットになるかどうか、など予測は無理に等しい。それでも、あえて富野氏に問うてみた。
「30周年まで人気が続いた理由がもし分かっていれば、こんなにジタバタしていません。僕は来年に向けての作品も作っていますが、わからないから成り行きでやるしかないです」
ただし、ロボットを人型の機械、つまり「モビルスーツ」と定義したことで、従来のロボットアニメとは一線を画すことができた。ファンの中に、別物だという意識が生まれたからだ。さらに、ガンダムは敵と味方が人間同士という設定も真新しかった。
「それまでこのジャンルの作品の敵は宇宙人でした。敵味方のキャラクターが入り乱れる物語を作るということだけでも斬新に見えたし、普通のドラマを描けました。それは、ディズニーでもやっていなかったことですから。子ども向けだからやさしい物語を作るというのではなく、戦場の物語だからこうなってしまうという物語を、アニメーションのキャラクターを使って描いただけ。動く絵は、子どもが見ても大人が見てもわかる表現手法だし、基本的に映画というものは観客の年齢を限定しないですむ媒体だと理解しています」
ロボットは子供向け、アニメは子供向け。富野氏は、最初からそう決め付けることはなかった。10代でガンダムを見た人が、大人になってから見ても、常に新発見があるのかもしれない。さらに、人間対宇宙人というような勧善懲悪式の設定でもなく、人間対人間という戦場の人間ドラマにしたことで世代を問わず多くの人の支持を得たようだ。
ただ一つ、疑問に思うのは、30年の時を経た今となっても、日本からロボットというジャンルでガンダムを超える存在が出ていないということ。ガンダムの一人勝ち。それは、ライバルが出てこないこの業界の寂しさを示す縮図でもあった。
(つづく)
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