経営者必見!世界一の部下の育て方【師弟愛】
2009年10月12日(月)8時0分配信 ゆかしメディア
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1勝のために、数万人という大観衆の前で、肩を抱き喜んでいる大の男2人がいた。2007年2月25日、明るく陽が差す中でもまだ風は肌寒さを感じさせる中山競馬場。ローエングリンで「中山記念」を勝利した伊藤正徳調教師と後藤浩輝騎手の2人に、スタンドを埋め尽くす大観衆の視線が集まっていた。
経営者と部下。この間柄は、会社の規模や仕事の内容から言って、「師匠と弟子」と言い換えても良い関係もあるだろう。その場合はトップと部下よりも遥かに固い絆で結ばれていることが多い。
競馬の世界も今や高学歴な調教師も増えて、よく言えばクールに厩舎運営を行う人も多くなった。また、武豊騎手らフリー騎手の活躍によって、師弟関係は薄れていきつつある。だが、古くから消えることのない普遍の絆もいまだにあるのだ。
伊藤氏は、弟子が乗れない時代も我慢して育て、またアメリカ武者修行も許すなど現代においては、弟子を大事にする人でもあった。その甲斐あってか後藤騎手はメキメキと腕を上げていき、今では年間100前後の勝ち星をあげ、人当たりの良さからファンや関係者からも人気を集めるようになった。
しかし、好事にはいつも魔が潜んでいるものだ。
■弟子の生涯最大の危機を救った師匠
「後藤と吉田(騎手)が事情を聞かれているらしいぞ」。
1999年、うだるような暑さの8月。人も馬も北へ南へと遠征して閑散としている、この時期のトレセン村(競馬の世界では、美浦、栗東の両トレーニングセンターを指す)。この情報が素早く駆け巡った。
後輩吉田騎手を報復のため木刀で殴打してしまった。1999年、4カ月もの長期間にわたって、騎乗停止処分となってしまった。もちろん一般社会なら刑事事件だが、競馬界では異例の重たい処分だった。
あまりにも長い4カ月。この間、実際のレースには騎乗できない。当然、レースに出られない騎手を、稽古で乗せる調教師もまずいない。この時、後藤騎手の頭には「廃業」までよぎったかもしれない。4カ月という時間は、一人の有望な騎手を消すには十分な時間だった。
だが、朝にならない夜はない。騎乗停止期間は終った。馬主や調教師たちが騎乗を依頼しなければ、後藤騎手はもう終っていた。しかし、不思議なことに騎乗する馬の数は揃っていたのだ。本人も不思議だっただろう。
もちろん、行動自体は厳重に罰するべきだが、事情や背景をよく知っている競馬関係者たちは、後藤騎手に同情していた。「後藤をあそこまで怒らせるなんて」「吉田はいったい後藤に何をやったんだ」などの声が上がっていた。だが、それにしても当初は謎だった。
■恩返し
弟子が処分されている4カ月の間、動き回っていたのが師匠の伊藤正徳氏だった。各厩舎をはじめトレセン中で、頭を下げて回っていたのだ。調教師とはトレセン村においては絶対的な権限を持つ。馬主と奥さん以外には頭を下げることはないとも言われている存在である。
伊藤氏は各関係者に2つのことをお願いしたようだ。「後藤を乗せてほしい」「自分が頼んだことを口外しないでほしい」。師匠も自身の騎手時代の経験から、怖れていたことがある。いったん乗り馬に恵まれなくなると、勝てなくなる。そうすると、良い馬に乗るチャンスから遠のいていってしまう。負のスパイラルに陥ることを怖れていたのだ。
師匠の心配をよそに、後藤騎手はおかげで1999年暮れに復帰を果たし、翌2000年には初の年間100勝を達成。関東2位の好成績を収めた。見事に正のスパイラルに転じた。そのち、競馬という狭い世界で、後藤騎手の耳にも師匠の行動は耳に入った。
1992年に騎手デビュー。競馬学校を卒業し伊藤氏が身元引受人となり、イチから競馬のイロハを学んできた。だが、後藤騎手は、まだ「先生に恩返しをしたことがない」と考えていたという。いつもそれが頭の片隅にあった。
前出のローエングリンは、師匠の伊藤正徳厩舎の超良血馬。それまでに何度も乗っていたが、結果を出し切れずに降ろされる憂き目にあっていた。だが、馬も衰え力が落ちてきた8歳となり、2007年2月の中山記念で約2年ぶりに騎乗機会が回ってきた。
何とか馬にもう一花咲かせてやりたい師匠。その力になりたい弟子。その思いは一つになり、馬に乗り移っていたかのようだった。レースはスタートした次の瞬間から、ローエングリンが軽く先頭に立った。夕陽に照らされた栗毛の馬体は、まばゆいばかりの光を放ちながら、後続を引っ張り、そのままゴールへ。一瞬たりとも先頭を譲らないパーフェクトウィンだった。
レース後に師匠に肩をギュッと抱かれた後藤騎手。レース後のインタビューに「今日の勝利によって先生に恩返しができた。僕も辛かったが、先生にもこの馬で色々な思いを経験させてもらって、今日は言葉が何も出ないです」と語った。
後藤騎手はその後も順調なキャリアを歩み続け、本業以外でも、TV、雑誌連載やイベントなど引っ張りだこ。競馬番組では、ほしのあきさんから「ゴッティ」と呼ばれるなど、愛されるキャラクターで、競馬の魅力を伝えることに貢献している。今や日本の競馬になくてはならない存在でもある。
この師匠に、この弟子あり。上下関係がドライになりつつある現代においても、師匠の行動一つで弟子の未来が変わることがある。弟子の最大の危機に、師匠であるあなたはプライドをかなぐり捨てて動くことができるだろうか。
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