次世代自動車特集:リチウム電池で増産競争、中・韓追い上げ
2009年10月27日(火)16時42分配信 ロイター
10月27日、自動車メーカーが相次ぎ投入するエコカーの「心臓部」である蓄電池は、パソコンなどIT機器のデバイスとして使われているリチウムイオン電池が本命に。写真は日産のリチウムイオン電池。7月撮影(2009年 ロイター/Yuriko Nakao) [ 拡大 ]
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[東京 27日 ロイター] 自動車メーカーが相次ぎ投入する環境対応車(エコカー)の「心臓部」である蓄電池は、パソコンなどIT機器のデバイスとして使われているリチウムイオン電池が本命だ。
電機メーカーでは、自動車用市場のフロンティアをめぐって、大型化したリチウムイオン電池の増産競争が始まった。電池技術で先行する日本勢は、世界市場で主導的な地位を獲得できる可能性があるが、韓国・中国勢の追い上げは激しい。実用化で先行しながら価格競争に巻き込まれて追い抜かれた半導体や液晶パネルのように、電池がコモディティ化することで、相対的に地位を低下させる懸念もある。
<自動車にリチウム電池の採用が本格化>
ハイブリッド(HEV)自動車や電気自動車(EV)などエコカーにとって、電池の技術が自動車本体の性能そのものとなる。電池の容量が増えればEVの走行距離が伸び、高価な電池の価格が下がれば、EVの値段は普及価格帯に近づくことになる。
エコカーブームをけん引しているホンダ<7267.T>の「インサイト」やトヨタ自動車<7203.T>の「プリウス」は、量産実績のあるニッケル水素電池を搭載している。だが、容量やエネルギー密度に優れるリチウムイオン電池が、安全面や耐久性などの課題が克服されつつあって採用が本格化している。世界初の量産EVである三菱自動車<7211.T>の「アイミーブ」や富士重工業<7270.T>のEV「プラグインステラ」はリチウムイオン電池を搭載。トヨタが年末に発売予定のプラグイン・ハイブリッド車(PHV)の新型プリウスもリチウムイオン電池を採用する予定だ。
リチウムイオン電池はソニー<6758.T>が1991年に世界で初めて実用化したのが始まりで、電機メーカーは、小型電池としてノートパソコンや携帯電話などデジタル家電向けの量産化で実績がある。
これに対し、自動車を動かすための大型電池は、小型の家電用電池の数百倍を超える容量が求められる。特にEVの電池容量はHEVの20倍を超える。EVが50万台普及しただけで、家電用を中心とする現在のリチウムイオン電池容量の世界的な規模に達するという。
<トヨタと組むパナソニック、三洋買収で全方位外交へ>
眼前に横たわる巨大市場に対し、電機メーカーは取り組みを強化している。パナソニック<6752.T>はトヨタと1996年に共同出資で設立した「パナソニックEVエナジー(静岡県湖南市)」でプリウスにニッケル水素電池を供給しているが、年末の新型プリウスにはリチウムイオン電池を提供する計画だ。
ただ、共同出資会社はトヨタが過半数を握っていることから、パナソニックは独自路線への布石も打つ。買収を予定している三洋電機<6764.T>はその中核で、家電用の小型リチウムイオン電池で世界シェア首位の三洋は、ホンダと米フォード<F.N>に自動車用のニッケル水素電池を供給してきた。フォルクスワーゲン<VOWG.DE>のHEVに、リチウムイオン電池を提供する予定となっている。
21日の事業説明会で三洋の本間充副社長は、自動車用電池の戦略は「特定の自動車メーカーと組むことなく全方位でやる」と強調した。パナソニックグループでの戦略について「パナソニックはトヨタと(共同出資を)やっているが、われわれは(日米欧の)複数メーカーとの事業を拡大する。これでパナソニックが拡大できないところを補えるし、グループにとって全方位の販売戦略になる」との考えを示した。
また、パナソニックの電池部門の「エナジー社」は10月、家電用の小型リチウムイオン電池140個を直列・並列につなぎ合わせることで大容量・大出力のEV用電池として応用する技術を開発したと発表した。エナジー社の野口直人社長は「トヨタだけでなく他社にも売っていく」と自動車市場で商機を探る姿勢をみせた。
<GSユアサ、三菱・ホンダ以外にも供給へ>
三菱自動車のアイミーブ向けにリチウムイオン電池を供給しているのが、老舗電池メーカーのジーエス・ユアサ コーポレーション<6674.T>だ。同社は07年に三菱自動車と三菱商事<8058.T>と共同出資で「リチウムエナジージャパン(京都市)」を設立し、3つめの工場建設を計画中。12年度末に年産3万台分(同300万個)の生産能力への増強を目指している。
さらに今年4月には、ホンダと共同出資でHEV用のリチウムイオン電池の製造会社「ブルーエナジー(京都市)」を設立した。ホンダのHEVへの供給は来年秋以降で、11年度以降に年産20―30万台(2000―3000個)規模の量産を目指している。
GSユアサの依田社長によると「同じリチウムイオン電池でも、HEV用とEV用では瞬発力や持続力など求められる特性が違う」という。同社は、HEV用とEV用に分かれた共同出資会社2社で、それぞれの技術を蓄積していく考えだ。さらに依田社長は、両社ともGSユアサが過半数の出資であることを強調した上で「三菱自動車やホンダの専属工場にするつもりはない。機会があれば他の自動車にも供給していく」として、日米欧の顧客を開拓していく方針を示している。
<NEC、日産EVの先にスマートグリッドも>
NEC<6701.T>は、自動車メーカーでEV量産に最も意欲を示している日産自動車<7201.T>と組む。日産が51%、NECグループが49%出資の「オートモーテティブ・エナジーサプライ(神奈川県座間市)」で、11年度には年産6万5000台分のリチウムイオン電池を生産する計画。すでに富士重のEVプラグインステラに搭載しているほか、日産が10年から日米で投入を計画しているEV「リーフ」に供給する。
NECでリチウムイオン電池の事業戦略を構築している「環境・エネルギー推進室」によると、日産は年間20万台のEV量産するという大きな目標を掲げているが、この全てに電池を供給できるだけの設備投資を実施するかどうかは未定だ。EV用電池への投資拡大に迷いはあるものの、自動車メーカーと共同事業でリチウムイオン電池技術を集積することで、次世代送電網「スマートグリッド」の蓄電池技術に応用していくことが視野にあるという。
日立製作所<6501.T>子会社の自動車用リチウムイオン電池会社「日立ビークルエナジー(茨城県ひたちなか市)」は10月に量産ラインを増設したと発表。2010年の本格稼動で月産34万個になり、年間10万台以上のHEVに供給可能な世界トップレベルの量産能力になる。米ゼネラル・モーターズ<GM.N>向けに出荷する予定だ。
東芝は、2007年末に「SCiB」と呼ばれる、急速充電・長寿命の独自のリチウムイオン電池を商品化して市場に参入した。自動車用としては、フォルクスワーゲンとEV用電池の共同開発で提携している。
<電池価格の引下げ課題に、政府支援の要望も>
リチウムイオン電池で最も大きな課題は、電池価格の引き下げだ。経済産業省の指針では、エコカー用蓄電池の価格は10年に現状の2分の1、15年に7分の1へと、段階的に引き下げることを求めている。
電池業界関係者によると、現状の車体価格に対してリチウムイオン電池の価格は半分程度とされているが、三菱自動車のアイミーブに置き換えると1台460万円の車体に対して電池価格は230万円程度。仮に電池価格が半分に下がれば、車体価格は200万円前後とされる普及価格帯に近づくことになる。
電池の低価格化には、量産化とともに電池技術の革新で材料費を引き下げることも欠かせない。ただ、三洋電機の本間副社長は「自動車メーカーが車体を軽量化するなど、すべての部品で(車体価格を引き下げるためには)どうするかという議論をしなければならない」と強調し、電池メーカーだけでなく自動車業界全体の課題として解決を求めている。
また、電池メーカーの技術開発とコスト引き下げに政府の支援を期待する声が根強い。米国では8月にオバマ大統領が、EVの製造・開発支援で、自動車会社や部品メーカーに総額24億ドル(約2300億円)の補助金を交付すると発表。GSユアサの依田社長は「米国だけでなく、中国も韓国もリチウムイオン電池に政府が支援している中で、日本だけ資金を出してもらえていない。電池について日本の政府も(国家戦略として)考えてもらいたい」と強調。自動車用電池をめぐる国際競争が始まろうとしている中で、国の支援が欠かせないと強調している。
<韓国・中国勢の追い上げ厳しく>
日本メーカーのリチウムイオン電池の技術は、世界的に先行しているが「リードの幅は大きなものではなく、他の国もいずれ追いついてくる可能性はある」(GSユアサの依田社長)という。目立っているのは韓国勢と中国勢。サムスンSDI<006400.KS>は、ドイツの自動車部品大手ボッシュとEV用電池の合弁「SBリモーティブ」を韓国内に設立。SBリモーティブは、独BMW<BMWG.DE>が発売予定の小型EV用の電池を受注したほか、米電池メーカーのコバシスを買収するなど欧米で存在感を強めている。また、韓国の化学大手LGケム<051910.KS>はGMにEV用電池を供給する計画。さらに、自ら自動車会社を保有している中国の電池メーカー比亜迪(BYD)<1211.HK>は、フォルクスワーゲンと提携関係にある。
特に韓国勢は、半導体や液晶パネルの分野において、実用化で先行した日本勢を集中投資とコストダウンで抜き去ってきた歴史がある。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の小林憲司・蓄電技術開発室主査は「現時点で自動車用電池は、だれでも作れるという(コモディティ化の)状態ではないので、日本勢はここで先行しておかなければならない」と指摘。
さらに「技術が海外に追い越されると(コモディティの世界に)なってしまう。日本には、電池メーカー、材料メーカー、ユーザーの自動車メーカーが集中しているので、がっちりと日の丸電池を作っておく必要がある」と述べている。
(ロイター日本語ニュース 村井 令二:編集 田巻 一彦)