旅行券の積立金名目で約7億円をだまし取られたとして、大阪市内の建設会社が大手旅行代理店「近畿日本ツーリスト」(東京・神田)と元社員の男性(41)を相手取り、積立金の返還などを求める訴えを大阪地裁に起こしていたことが分かった。近ツー社員という信用が背景にあったとはいえ、なぜこれだけの大金をあっさりだまし取られてしまったのか。
訴状などによると、元社員は近ツー福知山支店在職中の2006年11月、建設会社に対し、旅行券代金として現金を一定期間預けると期間満了後に数%の利息を付加した旅行券を取得できる積み立て商品「旅したく」を勧誘。同年12月から今年1月までの約2年間で11回に渡り、4000万円〜1億円を元社員の個人口座に振り込ませた。
フタをあけてみれば、あまりにも単純な犯行だが、こんな手口が成功した理由は、旅行各社が取り扱う積み立て商品が銀行金利よりも魅力的な内容で販売されている点にある。
現在、主な旅行会社が販売している旅行積み立て商品は「JTBたびたびバンク」(1.5−1.75%)「近畿日本ツーリスト旅したく」(1.7%程度)「日本旅行ドリームプラン」(1.5−2%)「HIS貯めチャオ」(1.6−2.45%)。日本航空や全日空も同種の商品を販売しており、いずれも銀行の定期預金よりはるかに利率が高い(旅行各社は利子ではなくサービス額などと表記)。
しかも、利子部分に税金がかからないなど“特典”も多く、資金の安定運用には極めて有効な手段に見える。だが、問題点がないわけではない。実際にこれらの商品を販売したことがある元旅行会社の社員は、実情をこう語る。
「満期を迎えても、積み立て資金は原則として旅行関連の経費にしか使用できません。旅行会社や交通手段は限定されており、旅行券以外の現金化も不可能。やむを得ず現金に戻す際には一定のコストが発生します。さらに、旅行会社の倒産リスクも担保されません」
ただ、これらの条件を差し引いても、旅行積み立て商品が魅力的な“金融商品”であることに変わりはない。また、旅行会社の営業マンは他業種に比べて転勤が少なく、顧客や関係者との距離が縮まりやすいことから、同様の詐欺事件は過去にも起きている。
1998年3月には、JTB社員の男=当時(40)=が大阪市のチケット取扱会社に「ハワイ旅行の格安航空券が手に入る。事前に購入代金を出資すれば、手数料を上乗せして返す」と持ちかけて約3億8000万円を詐取し、逮捕された。
このJTB社員と今回の近ツー社員は、いずれも犯行後に会社を退職。個人で旅行会社を設立していた。JTB社員は格安ツアーや航空券を売り出し約7億6000万円を集めて自己破産し、近ツー社員はマスコット人形「くいだおれ太郎」の買収話をブチ上げていたという。退職や独立を控えた旅行会社の営業マンが“おいしい話”を持ちかけてきたら、要注意かもしれない。