源氏物語の写本の一つで、昨年約80年ぶりに全54帖(じょう)の存在が確認された「大沢本」(鎌倉−室町時代)に、標準的な写本「青表紙本」の本文と大きく異なる展開の内容が含まれていることが、大阪大名誉教授の伊井春樹さんの研究で分かった。異なる部分は約2千字分。伊井さんは「これほど大幅に違う本文が見つかったのは初めて」と話している。
藤原定家が編纂(へんさん)した青表紙本の本文と大きく違う部分が見つかったのは、主人公である光源氏の死後の物語「宇治十帖」の中の「蜻蛉巻(かげろうのまき)」。薫と匂宮(におうのみや)という2人の男性との三角関係に悩んでいたヒロインの浮舟が宇治で行方不明になってしまった後のくだりだ。
青表紙本では、匂宮に命じられた従者の時方が夕方に都を出て、雨が上がったころ宇治に着く。やがて時方が帰った後に、浮舟の母君が葬儀を行うという展開。だが大沢本では、先に雨の中で母君が宇治に着き、葬儀を計画。小降りになったころに時方が着く。伊井さんは「大沢本の方がむしろ自然。この写本を誰が書いたのかも気になる」と話している。