砂浜で波とたわむれ、カニや貝を探して遊んだ夏の光景を、記憶の中に持つ人も多いのではないだろうか。自然海岸は人に自然とふれ合う場を提供し、豊かな生態系で海水を浄化する。市民団体「播磨灘を守る会」は、兵庫県たつの市の新舞子浜を中心に、瀬戸内海の豊かな自然海岸を守る活動を約40年にわたって続け、時に開発を優先する行政や企業と闘いながら、子供たちに海の大切さを伝えている。(八木択真)
波打ち際が沖に遠ざかる干潮時、水と砂浜が美しい幾何学模様を描く新舞子浜。春から夏にかけて潮干狩りや海水浴の人気スポットとしてにぎわうが、夏の終わりとともに鳥たちの群れが訪れ、羽を休める。
砂や泥が堆積(たいせき)して干潮時に姿を現す干潟は生物の楽園だ。陸から流れる養分を食べるプランクトンや二枚貝が豊富で、人間社会が流す汚れた水を浄化するとともに魚介類や鳥類などの豊かな生態系をはぐくんでいる。
同会代表の青木敬介さん(77)は「昔の播磨灘はどこも遠浅だった。今残っている自然海岸はわずか7%です」と嘆く。自然海岸が激減した今、陸から流れ込む汚れは分解されないまま底にたまり、沿岸は魚が減っているという。
青木さんの活動の原点は京都での大学生活から帰郷した昭和30年代、黒ずんだ色に変わり果てた海への衝撃だった。高度成長の犠牲となり、海岸を埋め立てて造られた工場や沖を行き交う大型船からの排水が原因だった。
40年代に入ると赤潮が頻発。酸欠で死んだ魚が連日浜に打ち上げられた。たまりかねた地元の漁師たちが中心となり、会が発足。海水の汚れや透明度の定点観測を開始し、海沿いにある工場の排水を監視する取り組みを始めた。
同時に海を守る裁判にも積極的に加わった。昭和50年には赤潮の原因が工場排水や糞尿(ふんによう)の海上投棄にあるとして、徳島や香川の漁師たちが工場を持つ企業などを相手に「赤潮訴訟」を起こす。青木さんらは定点観測のデータを基に裁判で証言し、企業などに一部責任を認めさせた。
開発が一段落した約20年前から、新舞子浜での定期的な清掃活動や生物調査、海に親しむアドベンチャースクールを通して地元の子供たちに海の魅力と多様な生物の大切さを伝える活動を続けている。今では子供時代に参加した大人たちが手伝いに来ることもあるという。青木さんは「海を大切にする意識が定着したのかな」。近年は湿地保全を目的とするラムサール条約に新舞子浜を登録するための活動にも取り組む。
青木さんは力を込める。「あらゆる生物が重なりあうのがこの世の中。その無数の条件がなかったら人間はおろかイワシ一匹生まれなかった。人間が勝手にいろんな命を殺せば、いつか人間に返ってくることにそろそろ気付かなければ」