「飲食店で接客をしていると、トークの訓練にもなるんですよ」と話すのは、那覇市内の居酒屋で働くM子さん(29)。新潟県出身。自称・パフュームの大本彩乃(のっち)似の雪国美人だ。地元の高校から写真の専門学校を卒業。5年ほど地域雑誌などでフリーカメラマンをしていたが、25歳のころ、わけあって沖縄へ移住してきた。まもなく5年を迎えようとしている。
M子さんは3人姉妹の長女。沖縄に親類がいて、幼いころから夏休みなどで沖縄へ遊びにきていたという縁はあったが、移住の直接のきっかけは、宜野湾市で1人暮らしのおばさんが病気がちで、「万一のために」と定期的に様子を見に行くように両親から“派遣”されたことだ。
雪国から南の島への移住。ふだんはヒマだが、生活費も稼がなくてはならないため、居酒屋でアルバイトを始めたところ、意外なことに気が付いたという。「カメラマンの仕事ではモデルさんにいろいろ話しかけて、いい表情を引き出すのがポイント。居酒屋でもお酒の種類や、おすすめメニューの説明などにトーク能力が必要なんです」
確かにM子さんの働きぶりを見ていると、単に注文を聞くだけでなく、観光客相手なら、どこから来たのか、とか琉球料理の特長、隠れた観光スポットなど、話が途切れることがない。「カメラマンもモデルを相手にした接客業なのかな」と妙に納得させられる。
もちろん写真の仕事をあきらめてしまったわけではない。休日にはカメラ片手にあちこちへ出かけている。「居酒屋でトークに磨きをかけると、いい写真が撮れる、なんて言うと笑われますかね? 生意気を言うわけではないですけど、苦労をしたわりには写真作品の金銭的評価がかけ離れているという不満もあって…」。カメラマンに限らず、フリーの仕事で食べていくのは難しい。
今の店には沖縄の文化人らが集まり、人脈が広がるのも魅力のひとつ。また、沖縄移住者によくあるパターンだが、滞在期間が長くなるとともに、将来を約束する男性もできた。彼も神奈川県からの沖縄移住者で、2〜3年後をめどに沖縄で飲食店を開きたいという。経済的な見通しが立てば結婚を考えている。
写真のテクニックを磨くために沖縄へ来たわけではないが、いずれは居酒屋の女将(おかみ)か、南国美人専門のカメラマンか? 沖縄には「てーげー」という言葉がある。「いいかげん」とか「適当」とか誤解されがちだが、なにごとも肯定する懐の広さが背景にある。それが「なんくるないさぁ(なんとかなるよ)」精神にもつながる。両立できそうなおおらかさが沖縄の魅力でもある。