■家族と別れる女に化けた白狐の悲しみ
文楽人形遣いの人間国宝、吉田文雀と弟子の吉田和生が、大阪・日本橋の国立文楽劇場で上演中の「芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)」で、狐が化けたヒロイン・葛の葉とその夫・安倍保名の悲しい別れを遣っている(23日まで)。「無心になって遣える役です。愛する夫や子と別れなければならない獣の悲しみが胸を打ちます」と文雀は話す。
「芦屋道満大内鑑」は、陰陽師として名高い安倍晴明の出生をめぐる伝説をもとに書かれた人気の演目。10世紀、恋人を失った安倍保名は恋人とうり二つの女性葛の葉と夫婦になる。しかし、葛の葉には秘められた素性があった。狐が化けた人間だったのだ−。
舞台は、葛の葉と、保名との間に生まれた幼子との情愛を描いた「葛の葉子別れの段」を中心に、恋人を失った保名の“物(もの)狂(ぐるい)”、朝廷内の奸計などが描かれていく。
文雀の葛の葉は、昭和45年の初演以来の持ち役。「葛の葉は人間の女性のときでも、狐の振りで2カ所ほどアゴを出すところがある。狐になってからは、白い毛縫いの衣装でこれが重い。キョロッという狐独特の頭の動かし方が特徴ですね」。保名初役の和生も「長く保名を勤められた(吉田)玉男師匠の遣い方を参考に、何とか少しでも近づきたい」と話す。
大阪では25年ぶりの上演となる「蘭菊の乱れ」が上演されるのも見どころで、夫や子と別れた葛の葉の悲しみが胸を打つ。(亀岡典子)