そこには午前8時半になると、大型トラックがやってくる。ほぼ2時間にわたって、ひっきりなしに到着しては積み荷を降ろす作業が繰り返される。積み荷は高さ1メートルはあろうかというほどの大きな袋。中には、使用済みパソコンや携帯電話を分解して取り出した電子基板がぎっしりと詰まっている。
非鉄金属大手DOWAホールディングス傘下の小坂製錬が運営する小坂製錬所(秋田県小坂町)。敷地内にある集荷場で、毎日のように見られる光景だ。
運ばれた電子基板は細かく裁断して専用炉で溶かし込む。そんな工程を経て取り出されるのは金や銅などの金属だ。産出量が少ないレアメタル(希少金属)も含まれており、約20種類にも及ぶ。小坂製錬の関屋宇太郎総務課長は「電子基板は金属リサイクル(再利用)の原料」と、その価値を強調する。
「都市鉱山」。使用済み家電に眠る金属資源は、今ではこう呼ばれている。現在、小坂製錬所に持ち込まれる電子基板は月800トンに達する。都市鉱山のリサイクル拠点として、国内屈指の存在だ。
小坂製錬所で取り出された金属は、家電用電子部品の材料などに再利用されている。さらに今後有望な利用先として期待されているのが電気自動車(EV)だ。「EVは高い性能が求められるため、広範な金属を使う電子部品の搭載が進むはず」。関屋課長は“EV特需”の到来を確信している。
◆第2の「都市鉱山」
EVには、レアメタルが欠かせない。EVの“心臓部”であるリチウムイオン電池はリチウムだけでなく、ニッケル、コバルト、マンガンが不可欠だ。レアメタルの一種であるレアアース(希土類)のネオジムとディスプロシウムがなければ、モーターの磁石の磁性や耐熱性を高めることができない。だが、レアメタルはロシアや中国、アフリカなどに偏在しており、将来にわたっての安定調達には不安がある。そこで、にわかに注目を集めているのがリサイクルだ。
リチウムイオン電池を搭載したEVの普及が進むことは、長い目で見れば、大量のEVの廃車が生まれることを意味する。家電や携帯電話に次ぐ第2の都市鉱山だ。
将来のEV廃車時代の到来に向けて、企業も動き始めた。非鉄大手、日鉱金属は平成23年度をめどに、使用済みリチウムイオン電池からリチウムやニッケルなどのレアメタルを回収する事業を始める。
廃電池からリチウムを十分に取り出すことは、まだ難しいが、日鉱金属の大井滋・執行役員は「将来にわたって、日本企業がレアメタルを安定的に確保できるように、早い段階からリサイクルに取り組んでいく」と、商機を見いだしている。
◆化学各社も存在感
三菱自動車、富士重工業が今年7月からEVの市販を開始、国内自動車メーカーはEV市場の先陣を切った。だが、市場をリードするのは自動車メーカーばかりではない。リチウムイオン電池の主要部材を生産する国内化学メーカーの存在がなければ、EVの普及もあり得ない。
例えば、ショートを防ぐための樹脂膜であるセパレーターで、旭化成は世界シェア(市場占有率)の5割弱を握る。日立化成工業も負極材で45%のシェアを持つなど、電池材料で日本メーカーは6割ものシェアを誇る。将来に向けて化学各社の投資は拡大する一方だ。
ただ、日本はレアメタルのほぼ全量を輸入に頼り、仮に安定調達が難しくなれば、自動車メーカー、化学メーカーともその強みを発揮できなくなる。実際、レアアースの世界の産出量のうち97%を占める中国は昨年1月に、レアアースの輸出税率を10%から25%に高めるなど輸出抑制に傾いており、日本企業に危機感が広がった。
独立行政法人の物質・材料研究機構によると、国内で都市鉱山として蓄積されている金属資源の量は世界有数の資源国に匹敵する。例えば、リチウムは国別埋蔵量で第6位の規模だ。
環境、生活、産業…。EVが普及すれば、確かに未来は変わるはずだ。ただ、EVの普及によって、世界的なレアメタル争奪戦は激しくなるに違いない。日本が成長を続けるためにも、都市鉱山のリサイクルが重要なカギを握る。(この連載は鈴木正行、川上朝栄、山口暢彦、本田誠、井田通人、山田泰弘が担当しました)