八ツ場(やんば)ダムの建設中止は民主党マニフェストでは、「新しい財源を生み出す」ための具体策として盛り込まれている。
だが、ダム下流域の自治体でつくる「江戸川改修促進期成同盟会」の根本崇会長(千葉県野田市長)は憤っている。「3度目の立ち退きを行えというのか」
根本会長がいう立ち退きとは「引き堤(てい)」と呼ばれる作業にともなう負担のことを指す。川幅を広げ、川に流れる水量を大きくして洪水を防ぐのが引き堤。野田市周辺では、過去2回の引き堤がされ、堤防沿いに暮らす多くの住民が立ち退きを強いられた。
現在の利根川下流域の川幅は、八ツ場ダムの建設を前提に整備されている。建設中止となれば3度目の引き堤も現実味を帯びる。野田市の谷口英博建設局長は「人口が膨れあがった首都圏で立ち退きがスムーズに行くはずがない」と話す。
群馬県の試算だと、利根川の分流である江戸川(延長60キロ)だけで、5千戸超の立ち退きが必要。県特定ダム対策課では「鉄道や国道などの橋梁(きょうりょう)改良も必要。あと6年で治水効果がでる八ツ場ダムに比べ、河川改修では長い期間と莫大(ばくだい)な費用が必要となる」とはじく。
立ち退きの用地買収費だけで2兆円を超えるという試算もある。
■数字に隔たり
中止と継続、どちらが費用負担は小さいのか−。
ダム建設をめぐっては、総事業費約4600億円のうち約3435億円が支出されている。進捗(しんちょく)率は7割だ。
中止に賛成する立場のNGO「八ッ場あしたの会」などは、ダムの総事業費が当初の総事業費2110億円から4600億円へと倍以上に膨らんでいることなどを指摘。完成までに事業費が膨らみ続ける可能性や、完成後の維持管理費、起債利息などの存在を懸念。「中止した方がはるかに安上がり」とみる。
一方、下流域の自治体だけでなく河川工学の専門家などからも、中止した場合の負担が膨大となる可能性を指摘する声がある。中央大の山田正教授(土木工学)は「『引き堤』に加え、堤防の整備計画自体もガラリと見直されることになる」と指摘する。
八ツ場ダムが調節しようとする利根川水系の水量は、既存の6つのダムが規制する「毎秒5500立方メートル」の半分近くにあたる「毎秒2400立方メートル」にもなる。これだけの水量が調整できないとなると、下流域の堤防計画は当然見直しが必要になる。
山田教授は「右岸と左岸でそれぞれ300キロの延長がある利根川水系。全部を整備し直すことは不可能に近い。堤防の強化とダムの両輪があって、やっと治水ができる」と指摘する。
■原点どこに
前原誠司国交相はこれまでのところダム建設中止に関する採算面での議論には踏み込んではいないが、「どれだけ費用がかかろうが中止する。新しい治水のあり方を考える」と発言している。
だが、そもそも「新しい財源を生み出す」ことに一番の目的が置かれた公約だったはず。「どれだけ費用がかかろうが中止する」という言葉に、どこか原点から離れた力(りき)みが顔をのぞかせる。