昭和8年の開設以来、数々の名勝負の舞台となった東京競馬場(府中市)。そこには、表舞台でスポットライトを浴びる名馬や騎手、調教師たちを支える裏方たちがいる。「人馬無事」を合言葉に、馬場造園や乗馬、ファンサービス、地域貢献までを支える人たちの思いを聞いた。(村上新太郎)
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冷気が肌を刺す午前5時半。馬場造園課の永野圭係長(36)は芝とダートの両コースを自分の目と足で確かめるのが日課だ。コースに少しでも荒れた場所があれば、事故につながりかねないからだ。
「できて当たり前の世界だが、コースは生き物。雨の少ない今年は去年と違う状況判断が求められる」
東京競馬場の芝コースは野芝、洋芝のミックスで12〜16センチに刈りそろえるが、降雪など気候の変化で開催を中止するときもある。平成20年2月には降雪のため、2週連続で開催を延期した。このとき馬場造園課の全員が連日徹夜で除雪にあたったという。
「とにかく無事が大事。それはどんなレースでも変わりない。いい競馬ができればこの上なくうれしい」
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日本中央競馬会(JRA)の年間売り上げは平成9年の約4兆円をピークに減少傾向にある。最近は、入場者が多くても購買単価が低く、売り上げは伸び悩んでいる。
そこで、新たなファン層の獲得のため奮闘するのが2年目の職員、金崎孝拳さん(24)だ。
「一昔前のダーティーなイメージを払拭(ふっしょく)して女性を驚かすイベントを仕掛けたい」
今秋は人気アイドルのイベントやお見合いパーティー、ボウリング大会、物産展まで開いた。若い世代を狙い、都内の学園祭を回ってチラシを配った。
意外と知られていないが、競馬場には子供用の遊具がそろっている。ミニ新幹線、ジャングルジムなど種類は豊富で「入園料200円は安いはず」と金崎さん。「若いファンをいかに開拓していくがカギ。今後も家族で楽しめるイベントを企画していきたい」
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JRAの設立趣旨には、競馬開催のほかに「馬事振興」も掲げられている。東京競馬場内の乗馬苑にはポニー2頭を含む25頭の乗馬馬がおり、乗馬の楽しさを広めている。
坪内瑞恵さん(31)は12年以上にわたり乗馬にかかわってきたホースウーマン。その仕事は、想像以上に忍耐力がいる。
乗馬馬の約8割はかつての競走馬たちで、闘争心旺盛で「とても乗馬には向かない」からだ。そんな馬たちに坪内さんは前進、停止、駆け足など、必要な要素をこつこつたたき込み、意識改革していく。サラブレッドが従順な乗馬馬になるまで「早くて1年かかる」という。
「乗馬は男女差がないスポーツ。たくさんの人たちと乗馬の魅力を共有できたら」
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場内には平日も開館している競馬博物館がある。村井文彦さん(52)は競馬の魅力をファンに伝える主任学芸員だ。
映像ホールや模擬レース体験コーナー、模型のサラブレッドに乗ってゲートが開く瞬間を体験できるコーナーなど、体験型施設のほか、世界と日本の競馬史を紹介した展示もある。「人間がつくった最高の芸術品」といわれるサラブレッドの血統をはじめ、馬に関するあらゆることを扱っており、村井さんの博識さはまさに「馬学者」だ。
「ファンの目線で常に幅広く馬を学んでいくことが大事。やりがいは大きい」
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東京競馬場長の星野年彦さん(56)は獣医出身。栗東トレーニングセンター(滋賀県)の競走馬診療所にいた当時、伝説の名馬、テンポイントの最期に直面した。
テンポイントは昭和53年1月のレース中、脚を骨折して手術を受けたが、43日間の延命治療の末、死んだ。テンポイントの助命を嘆願する電話がJRAに数千本寄せられたという。
「結果として救えなかったわけですが、あの経験をもとに、その後、臨床技術は飛躍的に向上した」と振り返る。
星野さんは今、地域振興に取り組んでいる。競馬場と地元・府中市のかかわりは深く、毎年5月の大國魂神社の「くらやみ祭り」の際は競馬を開催していないほどだ。
「地元のファンを大事にしたい。JRAには競馬しか商品がないので、競馬を理解してもらい、楽しんでもらう努力を続けたい」と語った。