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【野口裕之の安全保障読本】中国の“トロール漁船”警戒を

2009年11月4日(水)8時0分配信 産経新聞

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 日米の民主党がいかに中国に媚(こ)びようが、「国軍」には粛々と安全保障の重責を果たしてもらいたい。国軍は政権党ではなく国家に仕える組織であるからだ。日本には憲法理論上「国軍」はないことになってはいるが、自衛隊は国際的に事実上「国軍」と認められており、国家の安全には万全を期さねばならない。実際、オバマ政権が中国の少数民族弾圧に目をつぶっても、米海軍はやるべき任務を果たしている。

 例えば3月、南シナ海・海南島南方120キロで、米海軍の音響測定艦インペッカブルが5隻の“中国トロール漁船”に取り囲まれた事件は、米海軍の「果たすべき任務」を示唆している。中国船のうち2隻は15メートルまで接近し、中国国旗を振り、海域を離れるよう求めた。インペッカブルが中国船に放水すると、内1隻の“船員”たちは下着姿になり7メートルまで近付いた。

 インペッカブルは無線を通じ、中国船に海域を離れるので、航路を開けるよう求めた。ところが、2隻により前方をふさがれたことから衝突防止のため、緊急停止を迫られた。中国船は航行妨害に向け、木材を海中に投げ込んでもいる。中国船は事件前から、強力な照明を当てるなど、嫌がらせを継続していた。

 ■不気味な「海上民兵」

 トロール漁船と船員を括弧でくくったのは、民間人に偽装した軍事組織・海上民兵の調査艇で、操船・妨害は海上民兵が行っていたからである。

 海上民兵なる聞き慣れぬ軍事用語は、米国防総省が3月に議会提出した報告書「中国の軍事力−2009年」でも初めて登場した。

 《2008年5月、中国海軍・民兵沿岸支援部隊は商業用漁船を活用し、鎮江沖合で活動中の同海軍艦艇2隻に燃料・弾薬・その他の物品を供給した。民兵沿岸支援部隊が遠方の海軍艦艇に、どの程度の兵站(へいたん)・継戦支援を提供できるのかは明らかではない》

 報告書は「予備軍と中国民兵」という囲み記事まで設け分析を載せている。

 《18〜35歳までの軍に在籍していない男子は、すべて理論上は民兵組織に所属していることになっている。中国・国防白書によれば、その数は1千万人(2000年版)から2010年には800万人に減じられる(2008年版)。戦時には、居住地域で戦争支援に向け動員される。任務・組織性は一定ではなく、コンピューター・ネットワークの作戦・運用にかかわる場合もある》

 なぜ、この海域に海上民兵が任務に就いていたか、そして、インペッカブルの任務も今もってナゾだ。事件17日後に出された報告書にも、その答えを見いだせないが、メディア報道の紹介を装いながら「海南島における新たな海軍基地」について言及している点は興味深い。

 《弾道ミサイル搭載・攻撃型潜水艦や最新鋭水上艦を数隻ずつ収容するに十分な規模。海底施設を包含する港湾は、海軍が死活的に重要な国際シーレーンに直接、出撃することを可能にする。潜水艦は南シナ海に、探知されること無しに移動できる》 

 ■「海中」の攻防

 ところで、音響測定艦は冷戦時、ソ連原子力潜水艦の監視・追跡用に建造された。つまりインペッカブルは、海南島に出入港する特定・不特定潜水艦のデータを収集していた可能性がある。あるいは、潜水艦のエンジン・原子炉・スクリュー音測定のため、事前に海中・海底のデータを広く収集していた可能性もある。

 海中での音波は海水の温度や塩分濃度が変わるところで反射・屈折する。水深や海流の方向・速度でも音波の伝わり方は違う。特に、海流は季節ごとに違う流れを見せる。さらに、海底地形や岩や砂・泥の種類によっても、音波は異なった屈折をする。こうしたデータがなければ、潜水艦の動きや型式=任務・戦闘力は解明できない。インペッカブルが曳航(えいこう)するパッシブ・ソナー(水中聴音機)を、海上民兵が長尺のフックで引っかける瞬間を米海軍は撮影しているが、この種のデータ収集の重要性を逆に裏付ける一枚だ。

 中国当局は、米海軍の行動に関し「自国管轄海域」であると主張して、妨害活動を正当化している。だが、領海問題で係争中の周辺諸国は、当該海域を「中国管轄海域」だとは認めていない。そもそも、中国は日本の「管轄海域」にも海洋観測艦を頻繁に展開させ、同様の調査を行っている。その鉄面皮には毎度、感心させられるが、感心している場合ではない。

 海上自衛隊の音響測定艦「ひびき」「はりま」は当然、日本領・南西諸島近くの排他的経済水域でも調査活動を実施しているが“トロール漁船”に妨害される日が遠からず来るかもしれない。中国にとって、必要な海はすべて「管轄海域」なのである。








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