■「おいしい」の一言を励みに
世界のグルメが注目するレストランのガイドブック「ミシュランガイド」。10月、初の京都・大阪版が発売され、最高ランクの「三つ星」に京都から有名料亭など6店が選ばれた。唯一、大阪から三つ星に輝いたのが、フランス料理店「Hajime(ハジメ)」。オーナーシェフの米田肇さん(37)は、もとはコンピューターの基板を設計していたという“理系シェフ”。その繊細で知的、創造的な一皿が、世界のグルメをうならせている。(岸本佳子)
≪わずかな違いで≫
米田さんが料理を志したのは、小学生のときに見たテレビ番組がきっかけ。海外で活躍する日本人料理人を紹介する番組に、「これだ」と確信した。進学の節目ごとに料理の道を希望したが、両親から「高校は卒業した方が…」「やっぱり大学は出た方が…」と説得され、大学は理工学部に進学。卒業後は部品メーカーに就職した。
携帯電話やDVDなどさまざまな機器に埋め込まれるコンピューターの基板の設計に携わった。仕事はおもしろかったが、やはり料理の夢は捨てられない。料理学校の学費をためようと2年間節約生活を送り、目標金額を達成したところで退社した。専門学校で学び、国内のレストランでの修業を経て、渡仏。帰国後の昨年5月、大阪・肥後橋に「Hajime」をオープンさせたばかりだ。
米田さんの料理は、素材との「対話」から始まる。「この魚がにこっと笑って光るには、どう演出すればいいか。それには素材と対話するしかありません」
16分の1の大きさに切るのか、8分の1の方がいいのかと悩み、温度も0・1度単位でこだわる。わずかな違いで味は変わる。素材をとことん理解するため、よく見つめ、考える。だから、「料理のアイデアは次々とは湧かない」。徹夜して料理本を読み、図鑑も引っ張り出して考える。翌日もうんと考え、お客さんが玄関に到着してもまだ考えている。次の瞬間、ぽん、と新たな料理が生まれる。「毎日が勝負です」
≪世界から大阪へ≫
ミシュランの反響は、やはり大きかった。予約の電話が鳴り続け、直接、店に押し寄せる人も多かった。一方、予約を取れた幸運な客は「三つ星だから」と大きな期待を抱いて訪れる。「おいしい料理、いいサービスは当たり前。それを越えないといいものはできない」。ハードルはグンと高くなった。
しかし「これも通るべき道だと思っていました」。米田さんはもっと先を見据えている。独創性にあふれ表現力豊かな「米田肇にしかできない料理」を出し、それを食べるために世界中から大阪の「Hajime」を訪れる。おいしい店を核として、人が集まるようになれば、東京一極集中で元気をなくしている地方も変わるかもしれない。
そんな気鋭のシェフの原動力は、お客さんの「おいしい」の一言と、とてもシンプル。「食事をしたら元気になった、と言われると本当にうれしい」
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■京都・大阪で三つ星は7店
「ミシュランガイド京都・大阪2010」は、東京に続く国内2番目のガイドブックとして、10月16日に発売。京都、大阪のレストランや料理店など計150店が掲載されている。三つ星は「菊乃井本店」など7店。二つ星は25店、一つ星は118店。地域別では京都85店、大阪65店だった。ジャンル別では、和食が圧倒的に多いものの、大阪名物のたこ焼き、お好み焼きなど「粉モン」は選ばれなかった。