「老後のゆとりに」と始めた民間生保などの個人年金保険が、老後の税負担や社会保険料を押し上げることになってはたまらない。そんな声がよく聞かれる。しかし、中には誤解や勘違いもあるようだ。正しく理解し、有利な資金管理を。(佐藤好美)
大阪府寝屋川市に住む主婦、庄司香苗さん(60)=仮名=は会社員の夫(62)と2人暮らし。子供たちが小さいころは専業主婦だったが、子育てが一段落した後はフルタイムパートとして、年金や健康保険の保険料も自身で納めてきた。9年前、一念発起して個人年金保険に加入した。
「貯金とか、細かいことはできない性格。娘2人はお嫁に出したし、漠然と働いていたら、しんどくてやめてしまう。けれど、個人年金保険に入れば、掛け金を払うために働き続けんとあかん、と考えると思って」
加入したのは、月々約3万9000円を10年払い込む商品。払い込み総額は約470万円になる予定だが、まだ支払いが一部残っている。月に4万円払うのは結構、重荷。だが、「働けなくなったときに個人年金をもらってゆったりしよう」と、61歳から先の15年間、年36万円が出るのを楽しみにしている。
しかし最近、友人とお茶をしていて、思いがけないことを言われた。
「あかん、あかん。夫がサラリーマンだと、個人年金とあんたの年金をあわせて130万円以上になったら、税金が高くなる。月に3万円もらうために、どんだけ税金払うことになると思ってるんや」
庄司さんの公的年金は、今は部分年金だが、65歳からは年額約99万円が出る。「夫は70歳まで働きたいと言っているし、私の年金に個人年金保険を足すと、130万円を超えてしまう。このまま掛け金を払い続けるか解約するか、どっちがいいでしょうか」
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まず、税金を考えてみよう。庄司さんの公的年金はどの年齢時でも、公的年金等控除のラインを下回るので課税されない。ただ、個人年金は公的年金ではないので、別途、課税対象額(雑所得にカウントされる)を出す必要がある。誤解が多いが、個人年金で課税されるのは、加入して増えた金額だけ。自身が払った掛け金は「必要経費」として差し引かれる。
ファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんによると、庄司さんの個人年金保険は確定年金なので計算式は図の通り。雑所得にあたるのは年額約4万7000円だ。これは基礎控除(所得税で38万円、住民税で33万円)に収まるので、庄司さんは課税されず、夫も配偶者控除を失わずに済む。
次は庄司さんの健康保険料。庄司さんは現在、夫が加入する組合健康保険の被扶養者で、健康保険料はゼロだ。実は、庄司さんの友人が指摘した「130万円」は、健保の被扶養者にとどまる収入の上限。ただし、130万円は60歳未満が対象で、60歳以上は180万円。庄司さんは公的年金と個人年金の収入合計が180万円に満たないので=グラフ参照、夫の健保の被扶養者にとどまれる。
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畠中さんは「収入が公的年金と個人年金保険だけなら、庄司さんは所得税も住民税もかかりません。このまま個人年金保険に加入し続けていいでしょう。ただ、個人年金保険を今受け取る人は、予定利率の高かった時代に加入した人が多い。そういう人ほど税額や社会保険料に跳ね返りやすいので要注意です」と注意喚起する。
例えば、公的年金が庄司さんと同じでも、個人年金保険は払い込み総額600万円、65歳から毎年120万円を10年間受け取れる商品を考えてみよう。
この場合、雑所得は60万円。ここから基礎控除を差し引いた分が課税対象になり、所得税と住民税が年4万円弱生じるという。
妻が課税されると、夫は配偶者控除を失う。600万円の年収がある夫の場合、所得税と住民税で年に計13万円ほど税額が増える。
さらにこの場合、公的年金(99万円)と個人年金(120万円)の収入合計が180万円を超えてしまうので、健保の被扶養者から外れ、新たに国保料もかかる。
畠中さんは「個人年金保険は100万円以下の受け取りなら課税されないとか、130万円以下なら大丈夫とか、勘違いしている人が多いが、計算しないと分からない」。そのうえで、「受け取る1年前には計算し、事前解約なども検討するといい。解約は、例えば退職で収入が失業給付(非課税)だけになる年など、所得が出ない年にするのが狙い目です」とアドバイスする。