自殺で亡くなる人は全国で11年連続、3万人を超えた。3年前には自殺対策基本法が制定され、国も対策を進めているが、なかなか決定打がないのが実情だ。その中、東京都足立区が地域住民を巻き込んだ自殺防止のセーフティーネットづくりを始め、注目を集めている。
「夫がそこまで追いつめられていたことに、最後まで気付いてあげられなかった。今でも悔やんでなりません…」
今月4日、同区内で地域住民約250人を対象に自殺防止の研修会が開かれ、NPO法人(特定非営利活動法人)「自殺対策支援センターライフリンク」の南部節子さんが、仕事に悩み自ら命を絶った夫(享年58)への思いを語ると、会場から、すすり泣く声が聞こえた。
区内では平成10年から20年までの11年で1782人が自殺した。目立つのは40歳以上の男性だ。景気の悪化に伴う倒産、失業、人員削減による責任過多など、ざまざまな要因が重なり、心理的に追いつめられたケースが目立つ。
同区は高齢化や生活保護受給者の比率が高いこともあり、平成18年に都内23区で自殺者がワースト1になった。以来、自殺者対策を本格的に考え始め、昨秋、失業者が増える師走を前に、区職員を対象に自殺の予兆に気付き、見守り、必要に応じて専門機関につなぐ「ゲートキーパー」(門番)の育成を始めた。
今月からは地域住民を対象にした研修会を開始。4日に行われた研修会では南部さんの講演の後、都立精神保健福祉センターの田中祐医師から、自殺は本人の自由意思の結果ではなく、失業や倒産、病気などさまざまな社会問題が重なり起こるもので「防げる」ことや、自殺を思いとどまらせるための接し方を学んだ。
自殺の危険性がある人と感じたら「自分が打ち明け先に選ばれた」と受け止め、後回しにせず、その場で話を聞く。「そのうちどうにかなるよ」と聞き流さず、「辛かったね」と話を聞き、自殺をしないという約束をかわし、関係機関につなぐ−。この流れを教わった区民の山口洋子さん(67)は「50年以上前、私も中学時代の友人を自殺で失った。サインがあったのに、後で連絡しようと思っているうちに亡くなってしまったことが長年心残りでしたが、今度こそ、自殺のサインを出している人が地域にいたら迅速に対応していきたい」と話していた。
区は12日にも国民健康保険料や区からの貸付金の滞納者の元に、徴収に出向く区嘱託職員を対象にした、心のサインに気付く研修を実施していく。