有元容子さんインタビュー 「じわーっと家族になっていくというのがいい」
2009年8月27日(木)9時0分配信 dog actually
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東京は下町、谷中の路地を野良猫たちに出迎えられながら進んでいくと、有元容子さんのアトリエを兼ねたご自宅があります。今年初めて花を咲かせたという、可憐なレンゲショウマとともに、愛犬ハルちゃんが玄関先でお出迎えしてくれました。
有元容子さんは、日本画家で陶芸家。そして現在、実践女子大学美学美術史学の教授をされています。ご自身の作品の制作に学生の指導にと日々忙しく生活を送られている有元さんの愛犬は、ラブラドール・レトリバーのハルちゃん(11歳メス)。ハルという名前は、亡くなられたご主人、有元利夫さんの絵画のタイトルに“春”という言葉がよく使われていたこと、そして3月生まれということ、インターナショナルに通じ、二文字の名前が呼びやすく犬にも分かりやすいという理由からつけられたそうです。
「犬を飼おうと思ったのは、家族が二人きりになって、思春期に入った息子との会話がなくなったのがきっかけなの。しばらく犬を飼っていなかったし、息子と私の仲立ちをしてくれるような、大きめの家庭犬を飼いたいと思って。」
息子さんの希望も聞いて、ラブラドール・レトリバーのイエローの女の子を探し始めたそうです。そうこうするうちに、有元さんのお友達から紹介を受け、岐阜県のとある訓練所で生まれたハルちゃんを迎え入れることになりました。そして、家族という、近過ぎるからこそむしろ遠くなりがちな距離を、おっとりしたハルちゃんがしっかりと縮めてくれたそうです。
山登りを通じて深まったハルちゃんとの絆
有元さんの作品には、雄大で懐かしさを感じるような温かみのある山が、たくさん描かれています。山を描くためには、やはり実際に山に登って、景色を見たり写真を撮ったりしているのでしょうか?と尋ねてみました。
「最近は忙しくてなかなか山に行けないけれど、昔はハルとずっと一緒に山に登っていたのよ。高い山だと登山客も多いから連れて行けないけれど、マイナーな低い山なら誰とも会わないから迷惑にならないでしょ。かといって、誰とも会わないような山に女ひとりで登るのも、やっぱりちょっと怖いからね。」
出会うのは日本カモシカやサルなどの野生動物ばかりといった、道なき道のようなところを進んでいくような山へ、有元さんはハルちゃんと一緒に行くといいます。そんな中でも、南アルプスの甲斐駒ケ岳のふもとの山、日向山へは、本当に足繁く登っていたそうです。開けた山頂からの眺望はもちろんのこと、花崗岩の岩肌が崩れてできた白砂が続く風景は独特な光景だそう。
「1,600メートルほどの山なのだけど、夏でも山頂はとても涼しいの。山頂でスケッチをしている間、ハルは花崗岩の砂をザクザクと掘って、そこに埋まって涼みながら待っていてくれるの。」
登山客があまり来ないような山に登るにあたり、ハルちゃんはよきパートナー兼ボディーガードとして、活躍してくれたそうです。
「登山をする時のハルは、本当によきパートナー。でも、初めて通る道を行く時は、必ず私が先頭なの。知っている道は先頭を進んでいくっていうのに(笑)。」
有元さんは、ハルちゃんと一緒に低い山に登るようになってからというもの、ハルちゃんと一緒にとはいかないけれど徐々に標高の高い山にも登るようになっていったそうです。何人かのグループで標高の高い山に登るときには、身体が冷えすぎてしまうなどの理由でどうしても休憩時間が限られてしまうため、思う存分スケッチをする時間がなかなか持てないものだといいます。登山の回数を重ねていくうちに、山登りだけでなくスケッチもしたいねというお友達と一緒に登るようにもなったそうですが、やはり、自由に気兼ねなくスケッチしたり写真を撮ったりでき、ガードマン役まで果たしてくれるようなパートナーは、ハルちゃんをおいて他にはいないと有元さん。
「犬と一緒に山登りすると一人でも安心だし、自分のペースで動けるし、ハルも自然の中で急にスイッチが入って走り回ったり倒木をジャンプしたりして、とってものびのびして楽しそうにするんです。一緒に山へ登りにいくことはとても楽しかったわ。」
有元さんにとってのハルちゃんとは?
11年間、有元さんと一緒に過ごしたハルちゃんは、有元さんにとって特別な存在。
「他の犬と比べて特別というわけではなく、私にとって特別な存在。犬だからそんなに深くは考えていないかもしれないけれど、心の交流があることを感じます。この前も、息子と二人で話をしていたら、スーっと近くに寄ってきて静かに伏せ、まるで会話に参加しているようだったの。同じ言葉では話すことはできないけれど、そういう時に、ああ、心の交流があるんだなあと思うのよね。出来ればこれからも一緒に色んなところへ行って、色んなことを一緒に経験をして、そういうことがずっと思い出に残っていくといいなと思っているの。どうしても犬の方が先に逝ってしまうから。」
単なるマスコット的なペットとしてではなく、犬との心の交流を大切にしている有元さんはこう続けました。
「訓練所に数か月預けてギュッと濃縮して覚えさせるのではなくて、ゆっくりゆっくり時間をかけて、それぞれの家庭に犬が馴染んできて、じわーっと家族になっていくというのがいい。最初の頃は分からなくても、この頃分かるようになったんだね、というのでいいと思うの。そうやって愛情を確かめていけるのではないかと思っているんです。」
有元さんと愛犬ハルちゃんの間には、有元さんの描く作品のように、自然で緩やかな、まるで大地に優しく包まれているかのような揺るぎない心の交流が存在していることを感じました。
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今回インタビューをさせていただいた有元容子さんの個展(日本画・陶器)が10月に開催されます。有元さんが生まれ育った瀬戸内海の島の風景、銅の精練所の工場と煙突をモチーフにしたオブジェも出展されるそうです。
有元容子展
会期:2009年10月2日(金)-10月14日(水) 11:00-19:00
会場:平野古陶軒 東京都中央区京橋3-3-4
入場料:無料