永澤美保さんインタビュー (2) 「犬を犬として最上級に愛したい」
2009年10月1日(木)12時8分配信 dog actually
イラストが得意な永澤先生が描いたフック。フックのまなざしの先には・・・。 [ 拡大 ]
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アタッチメントの中で最も分かりやすいシグナルが『注視』
永澤先生が最も重視している人と犬とのコミュニケーションは、『アタッチメント(愛着)行動』。アタッチメントとは、安心を得られる対象からの保護を得るために接近を維持することを意味し、接近を維持するためにとる行動をアタッチメント行動といいます。わかりやすく言いかえると、アタッチメント行動とは、“くっつく”ために取る行動とのことだそうです。アタッチメント行動をとった結果、くっつく対象から保護行動や養育行動を引き出し、やりとりをしていくことで双方が特別な関係になるという意味を持っています。犬のアタッチメント行動は、ある意味子供と一緒で、新奇の環境で最も顕著に表れるそうです。匂いかぎばかりをする犬もいれば、飼い主さんを見つめ続ける犬もいたりといった、さまざまなシグナルの中でも『注視』という行動がとても観察しやすいのだそうです。
「人間の赤ちゃんには、相手の目の動きに注目するという習性がある。で、それに母親が反応してくれる。そういうのを経験して、目と目のコミュニケーションがはぐくまれていく。犬もきっとそれを学習できるんでしょうね。見つめていると、何か飼い主さんがしてくれるって(笑)。」
今後の研究は?
「犬と人が交流を持つことで犬側のオキシトシンの値がどう変化するかというところを見ていきたいと思っています。これまでの研究で、実際に犬と飼い主さんがまったりと過ごした後に血中のオキシトシンを測ったところ、両方でその値が上昇していたという研究はあるのですが、そこでどのような行動をとったかは観察されていないんです。なので、どのような行動が引き金となってオキシトシンの値が変化するのかというところを研究していきたいと考えています。」
オキシトシンは運動をしても、また、ストレスがかかっても値が上がってしまうことがあるホルモン。人間の行動は制限できても、犬はなかなかじっとしていてくれなかったり、じっとさせておいてもストレスがかかってしまうなどといった問題があり、どのようにして実験を組むか考えていくのはなかなか難しいそうです。
「現在、犬の認知能力に非常に関心が集まっていて、行動実験が盛んにおこなわれていますが、私は行動と内分泌の両方をみながら、人と犬が何故特殊な関係を結べるようになったかというところを研究していきたいんです。家畜化される過程で、どうやって人間に対する恐怖心がなくなっていったのか。その背景として、内分泌の変化が認知につながったのか、認知の変化が内分泌につながったのか分からないけれど、その関係を見ていきたい。そこを切り離さずに出来る実験をやっていきたいと思っています。」
動物を研究していて思うこと
「動物で人が癒されるというのは本当だと思います。ただ、やり過ぎてしまうと本質からずれて行ってしまうのではないかとも思います。動物は人を癒すために存在しているわけではありませんから。それよりも、もっと自然なやりとりのなかで癒しが生まれるのではないかと思うのです。」
そして、こう続けました。
「セラピードッグは人を攻撃することはタブーですから、とてもたくさんのトレーニングを積みますよね。訓練された犬は、もちろん、飼いやすいというのもあるとは思いますが、訓練が入り過ぎた犬は、実は自分の感じた通りの行動をあまりしてくれません。嫌だと思っても我慢してしまうんでしょうね。命令に従ってじっとしていても、何か刺激を提示した時には心拍が上がっていることなどから、行動に表さなくてもストレスを感じている可能性があります。動物は嫌なことをされれば逃げたり怒ったりするというのが自然な姿であり、犬は可愛いけれど怖いところもあるんだという姿を知ることが大切なのではないかと考えています。」
犬には犬らしく自由でいて欲しいと永澤先生。
「犬が犬らしくあるためには、私自身は多少困ってもいいと思っています。犬は確かに非常にコントロールしやすい動物ですが、人と暮らすためにはコントロールしなくてはならないと思い過ぎると、犬も飼い主も苦しくなってしまうこともあるのではないかと。」
犬に対する接し方に何を求めるかという点で、研究に対する姿勢も変わってくるそうです。犬を知っている研究者がする研究がいいのか、もしくは、犬を知らない研究者がする研究がいいのか。どちらにも長所短所があるそうなのですが、犬を知る研究者でしか発見したり気付いたりできない研究があるということを実感したのでした。
フックとチャーリーに思うこと
犬がいない状態が想像できないくらい、普通に犬がいる生活を送ってきた永澤先生。
「犬がいるとどうしても自由は制限されますよね。手間はかかるし、お金もかかるし、近所迷惑になることもあるし。良くないことの方がいくらでも挙げられるけれど、でも、やっぱり私にとって犬はなくてはならない存在なんです。」
ですが、どうしても気になるのがペットロス。
「チャーリーを迎えたのは、私のエゴではありますが、ペットロスになるのを避けたいという気持ちがあったからなんです。フックが元気なうちに2頭目を迎えたくて。これだけ密接に暮らしていると、いくら世話をしたとしても、死んでしまった時には必ず後悔するんだろうなと思うので。」
関西地方にある牧場で生まれたフック。先生が譲り受ける前にすでに名前が決まっていたそうです。ABC順に名付けられたフックは、ピーターパンに登場するフック船長からとられたのだそうです。
「なのにフックは、HOOK ではなくて FOOK なんですが(笑)。」
そして、10月で1歳になったチャーリーの名は、ジョン・スタインベックの『チャーリーとの旅』に登場するフランスの老紳士(プードル)にちなんでつけられたそうです。その本の一節を紹介してくれました。
見知らぬ輩が赤ちゃん言葉で話しかけてきても、チャーリーは相手にしない。
チャーリーは人間ではない。
彼は犬であり、犬であることが好きなのだ。
彼は自分は一流の犬だと思っていて、二流の人間になりたいなどとは思っていない。
「犬は家族なのだけれど、やはり犬は犬。決して人ではありませんよね。なので、この小説にでてくる犬のように、私も、自分を人間だと思っている犬ではなくて、犬であることを忘れない犬でいて欲しいと切に願います。」
犬を犬として最上級に愛してあげたい。そう言ってフックを見つめた永澤先生のまなざしが、今でも心に残っています。
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永澤先生の研究室では、「イヌのココロ」を知るための実験に協力してくれる飼い主さんと愛犬を募集しているそうです。詳細については下記のポスターをご覧ください。
『麻布大学伴侶動物学研究室:実験協力者募集のポスター』
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