EUを押さえこみ、中国、そして日本の「命脈」まで手中にしようとする強腕
ユーラシア大陸にパイプライン大動脈を延ばす巨大国営企業ガスプロムの「資源外交」
(SAPIO 2008年3月26日号掲載) 2008年3月31日(月)配信
文=中津孝司(大阪商業大学教授)
デフォルト(債務不履行)宣言で世界を不安に陥れたのが10年前とは嘘のようだ。世界的な資源価格高騰を背景に、プーチン政権が仕掛けたエネルギー支配は、EU、中国、そして日本に向かおうとしている。『ガスプロムが東電を買収する日』(ビジネス社)を著わした中津孝司・大阪商業大学教授に、プーチンの狙いを聞いた。
修士論文のテーマは 「ロシアのエネルギー」
かつてプーチンは修士論文にこう記した。
「ロシアのエネルギー資源はすべてロシアに帰属する。外国企業による略奪は阻止せねばならない」
彼は、天然資源を武器にロシアを復活させる戦略をその頃から持っていたのである。
06年1月1日、ウクライナでガス供給が停止される事態が起きた。ガス価格の大幅値上げに応じなかったことに対するロシアの制裁措置である。これは天然資源を背景としたプーチンの恫喝外交を象徴する端的な例と言える。
現在、ロシアは欧州全体のガス総需要の4割を供給し、全世界でも4分の1のシェアを占める世界一の天然ガス産出国となっている。国内で独裁色を強めているプーチンは、外交でもことあるごとに資源の輸出停止というカードをちらつかせて恫喝を繰り返すようになった。06年11月には英国に亡命した元KGBエージェント、リトビネンコの暗殺事件が起きたが、プーチンは容疑者を引き渡すどころか、自らの政敵を犯人に仕立て上げようとした。英露関係は悪化の一途を辿っているが、プーチンは強硬姿勢を崩さない。欧州市民はロシアの動向に戦々恐々としているのが現実だ。
前大統領のエリツィンは、ロシアの民主化とともに、ガスプロムを除く国営エネルギー産業の分割民営化を進めた。外資の導入で技術を吸収しようとしたのである。プーチンも当初は外資導入に積極的だったが、03年のイラク戦争開戦が転機となった。原油が高騰すると、天然ガス価格も原油に連動するため、ロシアには莫大な外貨が流れ込んだ。ここでプーチンは、外資はもはや不要と判断したのだ。
一方で、分割民営化された元・国営企業は、プーチンを苛立たせる問題になりつつあった。権益を漁って新興財閥が台頭してきたからで、その一人が石油企業ユーコスを率いていたミハイル・ホドルコフスキーだった。彼は公然とプーチン政権を批判し、野党に献金を続けた。しかし、次期大統領の座を狙うに至ってプーチンの逆鱗に触れ、ホドルコフスキーは脱税などの罪で逮捕されて流刑≠フ身となり、ユーコスも国営石油企業のロスネフチに売却された。
新興財閥の勢力を削ぐ意味もあり、プーチンは分割民営化したエネルギー企業の再国有化を着々と進めた。ロイヤル・ダッチ・シェルと三井物産、三菱商事が進めていたサハリン2プロジェクトに対しても、環境破壊という言いがかりに近い理由でガスプロムに権利を奪われたのは周知の通りだ。
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