ついに金庫番まで国外逃亡!? 「奥の院」から聞こえてくる“群発余震”の胎動を読む
続発! 公金横領に幹部大粛清の大鉈 金正日がすがる「家族偏愛」「愛人秘書」
(SAPIO 2008年4月9日号掲載) 2008年4月21日(月)配信
文=李英和(関西大学経済学部教授)
米朝核交渉の進展がピタッと止まってしまった。「テロ支援国家指定の解除」「平壌連絡事務所の開設」など米国側の譲歩案にも反応しない。米朝関係の改善こそが金正日体制維持のチャンスではないのか。「北朝鮮内部に異変が起きている」と「救え!北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク(RENK)」代表の李英和氏はいう。金正日周辺の最新情報をレポート・解説する。
いま金正日体制が揺れている。北の権力中枢内部で大規模な地殻変動が起き始めた。権力中枢を縦横に走る2本の活断層が震源である。1本目は「世代交代」の活断層だ。これは労働党・内閣・人民軍の三位一体構造を激しく横揺れさせる。2本目は権力中枢の直下を走る活断層だ。奥の院=金正日個人秘書室での「異変」は意思決定の仕組みを大きく縦揺れさせる。
両断層は経済再建=改革開放の路線闘争をめぐって昨年後半から共振し始めた。今年に入り微震の回数が増え、後述のようにいまや「粛清」の強震が権力中枢を直撃する。
米朝核交渉が大詰めで一進一退を繰り返すなか、日米韓の情報機関は上述のような北朝鮮の内部動向に感度を高めている。それが核交渉の成り行きを大きく左右するからだが、理由はそれだけではない。金正日政権が改革開放を断行できるかどうか、その余震に耐えられるかどうか。要するに現在、各国情報機関は金正日体制の耐震性を懸命に見極めようとしている。
以下では、北の権力中枢を襲う「横揺れ」と「縦揺れ」を分析し、金正日体制の「耐震強度」を測定してみよう。
「行革」推進で工作機関が機能不全か
「今年9月9日の共和国(=北朝鮮)創建記念日までに大幅な世代交代を断行する」
RENKの北朝鮮要員が今年2月に入手した内部情報である。金正日は先代の独裁者=金日成が寵愛した忠臣をそのまま引き継いだ。定年制が事実上存在しないので、北朝鮮では高級幹部の高齢化が極端に進む。その意味では幹部の若返りは必要である。しかし、労働党・内閣・人民軍(以下「党・政・軍」と略)で一挙に世代交代を図るのは大異変と言えよう。しかも、党・政・軍の幹部の世代交代だけでなく、大幅な人員削減と関連部署の統廃合=縮小が予定される。要するに、北朝鮮版「行政改革」の断行である。
この北版行革については韓国紙が「昨年末に幹部30%の人材と機構の縮小を命じた金正日総書記の指示」と報じた(3月12日付『東亜日報』)。同紙の報道はおおむね事実だが、正確さを欠く。RENK情報では「30%削減」対象は幹部人員だけではない。党・政・軍の関連組織自体も含まれる。同記事は「先軍政治に大手術」と銘打つ。そうして「軍から削減実施」「軍部の権限を縮小」「警察組織の地位を高める措置」と解説する。これも不正確である。今年1月には軍と保安省(警察)の両方がリストラを狙いとした一斉検閲の対象にされている。
注目すべきは軍部の削減実施が他の部署から強制されたものではない点だ。3月初旬入手の内部情報では、人民軍保衛司令部(憲兵組織)が「軍の外貨稼ぎ部門の40%縮小を主導した」と目標超過達成を自慢する。さらに保衛司令部は昨年秋に出された金正日の秘密指示=平壌市民10万人追放計画を今年撤回させたと豪語する。「暴動発生などの治安問題に責任が持てない」と進言した結果だという。軍であれ保安省であれ、削減計画はどこかの部署を弱体化させて党・政・軍の力関係を変更する意図には見えない。組織横断的な「行政改革」の形式をとった本格的な権力闘争と見るべきだろう。
「30%削減」で「幹部の世代交代」ともなれば、誰が(誰の系列が)リストラ対象になるのかをめぐり、組織内部で深刻な葛藤と対立が生じる。それを反映してのことか、昨年末から基幹部署で異変が相次ぐ。
なにより目を引くのが工作機関での異変である。労働党傘下の4工作機関が揃って昨年末から機能不全になっている。工作員の韓国不法侵入を担当する「作戦部」では、呉克烈部長(元人民軍総参謀長)が交通事故で重傷を負った。第三国経由の浸透工作員を管理する「35号室」では、室長代行の金鐘民副部長が持病悪化で執務不能となった。日朝交渉など対日工作を担当する「対外連絡部」の姜寛周部長は病気療養中だ。
そして特大級の異変が「統一戦線部」を見舞う。統一戦線部は昨年10月の南北首脳会談を成就させ、その権勢はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。その立役者である崔承哲副部長が今年2月に忽然と姿を消した。崔副部長は韓国大統領選(昨年12月)直前に金養建部長と一緒に訪韓している。その直後の「職務停止」であり、対南業務担当の他の幹部も粛清に遭った模様だ。おかげで統一戦線部を窓口とする「対南ライン」は麻痺状態に陥っている。
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