「地球温暖化の救世主」なんて大嘘だ
8億台の車を走らせて8億人を飢えさせる バイオエタノール燃料という名の怪物
(SAPIO 2008年6月28日号掲載) 2008年7月7日(月)配信
文=水野俊平(北海商科大学教授)
食糧高騰の戦犯≠ニして挙げられているのがバイオ燃料だが、それでも「バイオ神話」が根強いのは、バイオ燃料が二酸化炭素削減をもたらし、地球温暖化を防止するといわれるからだ。しかし、著書『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』でバイオ神話に疑義を呈した武田邦彦・中部大学総合工学研究所教授は、バイオ燃料は食糧問題にも環境問題にも害をなすと警告する。
ブッシュ大統領は07年1月の一般教書演説でバイオ燃料の普及促進を宣言した。これにより、人類史上初めて、食糧を乗り物の燃料として燃やす時代が始まった。
米政府がバイオエタノール生産に補助金を設定し、バイオエタノール需要を見込んでトウモロコシ価格が上昇したため、アメリカではオレンジや小麦、大豆などの農家が雪崩を打ってトウモロコシに転作している。トウモロコシの作付面積は、日本の国土に匹敵する4000万haだが、この1年間で九州と同じ面積の420万haも増えた。
アメリカのバイオエタノールの生産量は、今やブラジルの生産量に匹敵する年間1620万㎘に達し、世界全体の生産量の約3分の1を占めるまでになっている。
しかし、トウモロコシがどんどんバイオエタノール製造に回されたので、当然、食糧・飼料としてのトウモロコシは不足する。その代替品として小麦が飼料に使われるようになって小麦も不足。大豆農家もトウモロコシに転作したので、アメリカの大豆作付面積は11%も減少した。この連鎖反応で、トウモロコシも小麦も大豆もすべて右肩上がりに高騰している。
これが日本人の生活を直撃していることはご承知の通りだが、日本はまだ裕福な国なので、穀物価格が高騰しても餓死者が続出する事態は起きていない。しかし、世界の最貧国では話は別だ。
WFP(国連世界食糧計画)によれば、現在、世界には餓死寸前の状態にある人が8億人いて、その内、実際に餓死する人は年間1500万人と見積もられている。
これまで欧米先進国が生産した穀物の余剰分は輸出に回され、最後は飢餓の国に安価で売られ、飢えた人々の命をつないできた。しかし、これから余剰分はバイオエタノールに化け、自動車で燃やされることになる。数字の偶然だが、世界には8億台の自動車が走っている。つまり、8億の人々が自動車に乗るために、8億人が餓死の危機にさらされるのだ。
アメリカで07年に制定されたエネルギー法では、22年までに現在の約6倍の1億㎘までバイオエタノールを増産する計画である。各種統計から、最貧国の餓死者は現在の10倍に膨れ上がり、1億5000万人に達すると私は予測している。
餓死者の激増を招くという批判を受けて、ブッシュ大統領は「樹木や雑草などからバイオ燃料を製造する研究を進める」とし、6月の食糧サミットでも食糧以外のバイオ燃料の開発が検討課題に挙がったが、まさに絵に描いた餅≠ナある。
樹木や雑草からエタノールを作る研究は昔から行なわれ、日本でも建築廃材からエタノールを製造するプラントが大阪に建設され試験運転が始まっている。しかし、公表されたデータによると4万8000tの木材から採れるエタノールは1400tで、収率はわずか3%である。プラントの運転には石油などのエネルギーが必要で、これほど収率が低いと運転で消費した石油より少ない量のエタノールしかできない。これなら石油は石油として使い、建築廃材は燃やして発電に使う方がマシだ。
現在のところ穀物以外の原料に将来性はほとんどないので、バイオエタノールを製造し続ける限り、穀物は不足し、莫大な数の人々が餓死することになるだろう。
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