これは官僚の暴走が作り出す人為的大災害である
2011年「地デジ大パニック」で5600万人のテレビ難民が発生する
(SAPIO 2008年9月24日号掲載) 2008年9月26日(金)配信
文=鬼木甫(大阪学院大学教授)
NHKと民放各局の女子アナ6人からなる「推進大使」が白いスーツに身を包み、「地デジ」を連呼するテレビCMを目にしたことがあるだろうか。彼女らは3年後にアナログ放送が終了することを訴えるが、それは3年後に数千万人にのぼる「テレビ難民」が発生する可能性を意味する。このまま計画が強行されれば、日本を襲うであろう「混乱」と「不公平」を、情報通信分野の専門家・鬼木甫教授が予測する。
これまで半世紀以上続いた地上テレビのアナログ放送が2011年7月24日をもって終了する。正確には、総務省令によってアナログ放送を停止する「アナログ停波」であり、地上テレビはすべてデジタル放送、いわゆる「地デジ」に切り替わるということだ。
そもそもアナログ停波が決定したのは01年7月のことだったが、デジタル放送が始まったのはその2年以上も後の03年12月である。つまり、市場には地上デジタルテレビ受信機がなかった時点での決定だった。当然将来の需要予測などはできない。デジタル機の販売が進み、その普及について予測できるようになってから停波の時期を決めるのが常識である。
そこで私は友人と諮り、停波の決まる1か月前の総務省による意見募集で、「停波の時期を固定せず、弾力的に設定すべきではないか」と提言した。ところが総務省の対応は、「需要予測やテレビの買い替えサイクル等を勘案すれば、今後10年間でデジタル放送へ移行できる」「明確な目標期限に向けて取り組むことが最善である」という素っ気ない内容だった。結果的に私の提言は無視され、翌7月に、その10年後である2011年7月の停波が決定した。
たしかに、アナログ停波を早期に行なう理由はある。停波によって新たに利用できる電波の価値は格段に高い。もし他の先進国と同じようにオークション(入札)にかければ、1兆円を大きく超える政府収入になるだろう。アナログ放送をいつまでも残しておくとテレビ局のコストがかさむという事情もある。しかし、視聴者の準備が不十分な時点での停波に固執する理由がそれだけとは考えにくい。
なるべく早く商機を迎えたい電機メーカーの思惑が絡むという見方もあるが、根底にあるのは、「すでに決定したことは覆さない」という官僚体質だろう。中央官庁では2〜3年で担当が替わる人事サイクルが常態化しているために、波風を立てないで異動したいという思惑が働き、前任者による仕事の踏襲が多くなる。
こうした総務省の体質は、繰り返し発表されているあるデータを見れば明らかだ。それはデジタル機の普及予測である。総務省によれば、アナログ停波の時点でデジタル機の普及台数は1億台に達し、すべての世帯に行き渡るとしている。しかし、これはDVDレコーダーやパソコン、車載器まで含んだ「デジタル受信機能付機器の合計」の数字であって、言わば上げ底データである。無理な停波であることを隠すために、国民をミスリードしていると責められても仕方がない。
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