税収30兆円で弱者救済も──これは「奇策」ではなく経済学の常識だ
お金を遣わないと損をする「マイナス金利」こそ景気回復「最後の一策」だ=深尾光洋
(SAPIO 2008年12月17日号掲載) 2008年12月31日(水)配信
文=慶應義塾大学教授 深尾光洋
米国発金融危機から2か月、世界同時不況の懸念が拡大している。IMFは、戦後初めて日米欧が揃ってマイナス成長になるとの見通しを発表。日本では金融機関の融資が減少、深刻なデフレ再燃が心配されている。深尾光洋・慶應義塾大学教授は、究極の打開策として「マイナス金利」を提案する。
世界にばら撒かれた「地雷」
サブプライム関連で、世界に100兆円規模の損失が発生することは予想されていたが、これほどの大混乱が生じたきっかけは、やはり9月15日のリーマン・ショックである。3月に救済されたベア・スターンズよりも格上だった米国第4位の世界的金融機関が、何の予告もなく突如破綻。しかも蓋を開けてみたら、資産回収価値が10%に満たないことがわかった。バブル崩壊後の日本で金融機関の破綻が続いたとき、「最悪の破綻」といわれた大阪・木津信用組合でも、回収率は22%である。
リーマンの破綻と同時に米国最大の保険会社AIGが資金繰りに窮し、政府から巨額の資金援助を受けた。実質破綻の直前までAA格付けを受けていたAIGが、どうしてこんなことになったのか。元凶はCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)である。債務保証を担う金融派生商品だが、投機目的でも使われ、08年6月にはCDS取引の想定元本は54・6兆ドルと、実に07年世界全体のGDP(国内総生産)に匹敵する規模となった。AIGはCDSを使って巨額の債務保証料を受け取ることで利益を嵩上げしてきたが、サブプライム問題の深刻化で巨額の保証債務が表面化したのだ。
CDSの危険を顕在化させた米国最大の保険会社AIGには、16兆円もの資金援助が繰り返され、いまだ再建のめどがたっていない。CDSはバランスシート(貸借対照表)に計上しない「オフバランス取引」である。世界中にばら撒かれたCDSは、どこがどれだけ抱えているかわからない「地雷」なのである。
こうして世界中の金融機関にクレジット・クランチ(信用収縮)が拡大した。銀行間の貸し借りは麻痺し、銀行は中央銀行に頼らなければ、自分の資金繰りにも困るようになった。当然、客の資金繰りになどかまっていられない。企業や個人にお金がまわらなくなり、投資も雇用も消費も激減した。これが、リーマン・ショックから2か月でおきた、世界的停滞の経緯である。
この危機が始まったのが9月だから、まだ経済指標には表われていないが、おそらく10〜12月、来年1〜3月の成長率には、相当大きな落ち込みがあるだろう。先行きは不透明、回復は早くても来年の半ば過ぎだろうというのが、大方の予測だ。
G20(主要先進国と新興国20か国)財務相・中央銀行総裁会議を前に、「グローバル・デフレ」への懸念が話題になったが、私はその危険は当面はないと考える。だが例外がある。日本だ。
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