税収30兆円で弱者救済も──これは「奇策」ではなく経済学の常識だ
お金を遣わないと損をする「マイナス金利」こそ景気回復「最後の一策」だ=深尾光洋
(SAPIO 2008年12月17日号掲載) 2008年12月31日(水)配信
現金への課税で貸し渋りは解消する
私の提案は、現金・預金・国債など、政府が保証する金融資産全てに低率で課税することである。現状のデフレ率から考えると、2%くらいが適当だ。現金に課税するのは難しいが、新券を発行し、旧券との交換手数料として2%を課すことで、同じ効果を得ることができる。
そこまでしてデフレを阻止しなければならない理由は、デフレを放置すれば、いずれ日本経済の破綻につながるからだ。先にもいったが、モノの値段が下がれば、企業の収益も下がり、労働者の収入も下がる。株価も下落し、株を保有する金融機関の自己資本比率も下がり、貸し渋りが起き、倒産と失業が続出するという負の連鎖が起きる。すでに大学生の間では、新卒採用激減を覚悟しなければならない状況が起きている。
また、金融不安が起きれば、不良債権処理が課題になるが、それもデフレ下では困難になる。なぜなら、物価・賃金が下がる中で元本が据え置きなら、負債は重くなり、借金が返せなくなるからである。
もっとわかりやすくいえば、デフレとは、モノやサービスよりも、現金に魅力が生じてしまう現象である。金利がゼロでも、物価が下がれば、現金を保有しているだけで相対的にその価値が上がってしまう。本来、お金とは、モノと交換するための道具だったのが、キャッシュそのものに価値が生じてしまうのだ。こうなれば、誰もがお金を使わず、経済そのものが停滞してしまう。だからこそ、現金を保有することの価値をマイナスにし、「持っていても損」と、モノやサービス、投資などに向かわせるシステムが必要になってくるのだ。
リストラされ、所得もない人のなけなしの預金に課税するのか、という不安はあろう。たしかにそのとおりだ。だが、政策の工夫でフォローはできる。一定額を戻すようにすればいいのだ。たとえば、2%課税と同時に一律5万円を還付する政策を実施する。100万円預金をもつ人が2%課税されれば2万円だが、5万円を受け取れれば、3万円儲かることになる。預金が多い人は還付金より税金の方が多くなるので、貯めるより使うほうが得になる。一方、金融機関は日銀の当座預金に預けていても価値が目減りするので、使うしかなくなる。つまり貸し渋りも解消する。
私の計算では、課税対象資産は1500兆円あるから、2%の課税で税収は30兆円になる。30兆円の財源があれば、金融機関の資本充実や雇用対策に十分使える。赤字財政から2兆円もの給付金をばらまくより、ずっと合理的ではないか。
資産が海外に流出するのではとの懸念はあるが、大きな障害にはならない。なぜなら、マイナス金利導入は発表と同時に円安を促すからだ。円安になった後で外貨に交換しても為替差損が生じるだけなので、大規模な資本逃避は起きない。
弱点があるとすれば、この政策の実現には政治の力が必要になることだ。おそらく国民から相当の反発があるだろう。政治の覚悟が問われることになる。
しかし、紙幣とは、そのままではただの印刷物に過ぎない。この認識を共有し、デフレ危機に向かう議論を喚起する必要が迫っている。 (談)
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