「柔道は骨が折れますか?」事件の真相=山下泰裕
(SAPIO 2009年2月18日号掲載) 2009年3月5日(木)配信
文=山下泰裕(東海大学体育学部教授)
昭和天皇にはじめて拝謁したのは、27年も前のことだ。今でも忘れられないのは、御顔をほころばせた昭和天皇の穏やかな表情である。温もり、優しさ、慈しみ深さ……。自然と伝わってきたものを一言で表現するのは難しいが、私は畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
昭和56年に開催された世界柔道選手権大会で95s超級と無差別級の2階級で優勝した私は、翌年、赤坂御苑で催された「春の園遊会」に招いていただいた。出席者は約2000人。ノーベル化学賞を受賞した福井謙一さんや『窓ぎわのトットちゃん』がベストセラーになった黒柳徹子さんらが招待されていた。
会が始まると、陛下は、一人一人順番にお言葉をかけていった。みな緊張していたのだろう。私語一つない。離れたところに並んでいても、陛下と他の参加者との会話が聞こえてくるほど厳粛とした雰囲気だった。しかし、私は陛下のご質問に自然体で答えようとしていたせいか、待っている間は自分でも意外なほどリラックスしていた。
陛下は、「柔道でずいぶんがんばっているようですね」とお声をかけてくださった。一礼して顔を上げると、陛下と目があった。ほんの数秒、時間が止まった。沈黙が流れた後、陛下のお顔ににっこりとした微笑みが浮かんだ。
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