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トレンド

≪アルピニストの目(11)≫

気迫で実現したご遺骨の帰還

野口 健(アルピニスト)

VOICE 2009年10月20日掲載) 2009年10月26日(月)配信

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全ご遺骨が帰国できるまで800年以上?

 この夏、自身4回目となる遺骨収集のためにフィリピンに向かった。この連載でも何度か遺骨収集を行なった経緯などを紹介させていただいたのでここでは触れないが、この活動、じつに過酷である。事務所スタッフによれば、この活動を始めてから私の眉間にしわが増え、表情が厳しくなったとのこと。本人は無意識だが、たしかに写真に写っている自分の顔が急激に老けこんでいるのが分かる。

 遺骨収集を始めてからの1年間、不思議な出来事の連続であった。レイテ島の山中の洞窟で無数の遺骨を発見したときのこと。まずは私の時計が止まった。次に私の隣にいた人の眼鏡にひびが入った。そしてカメラマンのカメラがその場で原因不明の故障。別の洞窟前では、隊員の1人が突然仰向けに倒れ痙攣を起こし、担ぎ下ろす騒ぎ。そして帰国してから、これまた原因不明の体調不良が続いた。鉛を背負っているように体が重たく、額からは脂汗。そして靖国神社に帰国報告の参拝中に吐き気に襲われ、帰宅してから寒さに震え毛布を被るものの、意識が遠のいて救急病院に担ぎ込まれた。検査の結果、やはり原因不明。一晩点滴を受けるしかなかった。私はいままで霊感なるものを感じたことが少なかったが、この遺骨収集を始めてからは、じつにさまざまな現象に悩まされてきた。

 現地も過酷極まる。灼熱地獄のジャングルにマラリア蚊、ゲリラにコブラ、とくにフィリピンの離島は治安がきわめて悪く、われわれの仲間の1人がゲリラに拘束され自力で脱出し、何とか生還したこともあった。正直、ヒマラヤ登山より遺骨調査、収集のほうがはるかに過酷である。

 昨年までは、われわれのような民間団体による遺骨収集は認められなかった。所管官庁である厚生労働省によれば「遺骨収集は国が行なう事業であり、民間の手で持ち帰ることはできない」ということであったが、しかしその国家事業であるはずの遺骨収集の実態は、この10年間を見ても年平均600〜700体にすぎない。先の大戦での海外戦没者数は約240万人で、そのうち約125万体が日本へ送還され、未送還のご遺骨は約115万体。残念ながら、すべてのご遺骨を収集できない事情もある。しかしそれらを除いても、収集可能な遺骨は59万体とされている。つまり厚生労働省のこれまでのスピードで収集活動を行なえば、収集可能な59万人のご遺骨が帰国できるまでに800年以上かかってしまうのだ。遺骨収集、遺族による慰霊巡拝に充てられた国家予算はたかだか3億円にすぎない。はたして、これが国家事業といえるのだろうか。

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