「進化するのは、変化に強い種だ」――FileMaker Conference 2009
2009年10月31日(土)8時0分配信 ITmediaエンタープライズ
ジェネコム 高岡幸生氏,写真:ITmedia [ 拡大 ]
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●導入後も効果を拡大する「FileMakerサイクル」
「システム導入効果の“天井を上げられる”」――こう話すのは、FileMakerによる開発、コンサル、トレーニングを手がけるジェネコムの高岡幸生氏。高岡氏は、ある企業にFileMakerをインテグレートした経験から、この知見を得たという。
社名こそ明かされなかったが、「ある企業」では、関東圏の駅などでよく見かける自動改札機や券売機の機器メンテナンスや販売を手掛けているという。従来からERPパッケージを利用していたが、リース期限が迫ったことで、リースの延長か、あるいは新規開発するかを迫られることとなった。
だがその企業では、従来のERPがパッケージであるがゆえに、「必要のない機能があったり、逆に必要な機能がなかったりという問題意識を有していた」と高岡氏は振り返る。理論上はカスタマイズも可能だが、時間やコスト、そして導入後に改修が必要になっても「自力でのカスタマイズが難しい」という観点から、リースの延長は見送ることに決めたという。
そこで候補として上がったのが、FileMakerである。その企業では既に、ほかの業務でFileMakerによる合理化を行った経験があり、FileMaker(で開発するシステム)をERPパッケージの代替として利用するべく、検討を開始した。
その企業では、開発会社であるジェネコムに声を掛けるとともに、自社内にFileMakerによるERP構築を目指す「プロジェクトチーム」を発足させた。プロジェクトチームは、各部門に対し必要な機能をヒアリングし、ワークフローを整理。その結果に基づき帳票の選別と組みなおしを実施した。
このように、ビジネスの視点から策定した要件を、プロジェクトチームから開発会社ジェネコムに伝え、現実的にシステム化できる形に業務を棚卸ししつつ、FileMakerでの実装を進めたのだという。「要件策定(プロジェクトチーム)→開発方針検討(ジェネコム)→プロトタイプ開発(ジェネコム)→検証評価(プロジェクトチーム)→要件(再)策定→……」というサイクルを回したことが、ERPパッケージを利用し続けた場合の約4分の1のコストで、効果を期待できるシステムを開発できた要因だと高岡氏は評価する。
「くしくも今回の開発サイクルは、“PDCAサイクル”と似ている。サイクルを回すことで、“望んだ機能になっていない”または“現実の業務に即していない”というSIにありがちな問題を防止できた。ユーザー企業においてプロジェクトチームが果たした役割は、とても大きなものであった」(高岡氏)
高岡氏は「われわれも商売である以上、カスタマイズを依頼されたら対価を要求せざるを得ない」と正直に話す。だがユーザー側に、“ビジネス要件の変化に対応すべくカスタマイズしたいが、コストは掛けられない”というジレンマがあることも理解するという。そのためにジェネコムでは、FileMakerによるシステム開発とともに、ユーザー企業に対するトレーニングを重視している。
今回もユーザー企業のプロジェクトチームに対し、開発トレーニングを実施したと高岡氏は紹介する。スキルを移譲するだけでなく、システムを改修する際のルールを策定し、改修したら開発会社(ジェネコム)と改修内容を共有する体制を作る。これによりユーザー企業に“カイゼンを自発的に考え、自ら実装する”意識が生まれ、結果として冒頭のように、システムを導入した効果の天井を上げられるのだと、高岡氏は紹介する。
●ダーウィンの進化論に着想を得て
続いて登壇したのは、名古屋大学医学部付属病院の吉田茂医師である。吉田氏は同院で「メディカルITセンター長」を務める。これは民間企業におけるCIOに対し、CMIO(Chief Medical Information Officer)と位置付けられる立場だという。
同院では、Itaniumプロセッサを搭載した富士通の基幹IAサーバ「PRIMEQUEST」はじめブレードサーバ群で構成したインフラに、データベースとして従来はOracle、現在はCACHEを利用しており、その上で電子カルテシステムを運用している。「税金ではありますが」と断りを入れた上で、「大変なお金を掛けただけあって、とても高速で安定したシステム」だと吉田医師は評するが、反面「残念ながらユーザーの満足にはつながっていない」(吉田医師)のだという。
要因は何か? 吉田医師は「多様性や変化への対応不足、そしてユーザービリティーの低さ」を挙げる。
これには、医療という業界特有の事情が関連する。例えば診療報酬が改訂されるたびに、システム側の対応が必要となる。また「手術」という大きなイベントが発生する診療科かそうでないかにより、DBの構成も大きく変わるという。患者とその家族の、医療に対する意識も変化しており、「治療する」だけでなく、数10年にわたる慢性疾患に対するように「コントロールする」、そして「(患者を)みとる」というニーズがある。ここで挙げた多様性はほんの一例であり、すべてに適したインタフェースなど、あり得ようはずもない(ただし吉田医師は、「病院は企業の情報システム部に相当する部署を有していないのが一般的で、SIに当たっては個別に医師や医療関係者にヒアリングしつつ進めなければならない。その中で富士通はよくやってくれている」と評価した)。
構造上、現場のニーズを反映しきれず、ブラックボックス化してしまい些細な修正にも大きな費用が掛かる既存の電子カルテシステムを、吉田医師は「ベンダー依存型」だと述べる。対してかゆいところに手が届き、医療環境の変化にも迅速かつ低コストで対応できる仕組みを「ユーザー開放型」として紹介する。既存の電子カルテシステムはそのままに、ユーザーがカスタマイズ可能なシステムをアドオンすることで実現し、それを「User-Madeシステム」として定義する。
User-Madeの電子カルテシステムは、ボトム/ミドル/トップという3つのレイヤーで説明される。ボトムレイヤーは基幹、企業におけるERPである。名古屋大学医学部付属病院では、富士通のSIによる電子カルテシステムが相当する。
ミドルレイヤーは、ボトムレイヤーと、(後述する)トップレイヤーのデータ連携を担う。また監査証跡の確保も行う。ここまで紹介したボトムとトップに関しては「正直、FileMakerが苦手とする、あるいは、ほかのソリューションで構築した方が適当な分野だ」と吉田医師は話す。
そして、もっともユーザーに近いトップレイヤーに適するのが、FileMakerなのだという。名古屋大学付属病院では、29ある診療科および中央診療部門、そして各業務部門において、インタフェースとしてFileMakerが利用されている。電子カルテと、各部のFileMakerのDBは、XMLにより一定の周期で同期する。「従来は、“電子カルテシステムは使い勝手が悪い”とし、“自作のDBには詳細な医療データを入力するが、電子カルテには形式だけ入力する”というケースもあったが、現在はそのような現象はない。二重入力の手間、という問題も、根本的に解決された」と吉田医師は効果を述べる。
吉田医師は、FileMakerによる“手作りシステム”を組み込むことのデメリットも認識する。例えば医師は転勤が多いため、残されたシステムがブラックボックス化しかねない。ITの専門家でもないため、自作システムの仕様書なども存在しないことが多く、引継ぎもままならない。基幹系との連携も難しく、扱えるベンダーも少ない(大手SIerには、ほとんど相手にされない)。大きな問題は、「証跡管理が困難なため、真正性が満たせないことだ」と吉田医師は指摘する。こういった点は、(同院における富士通のような)大手によるソリューションが得意とするところだという。
このような(真正性確保以外の)リスクを軽減するため、吉田医師は「日本ユーザーメード医療IT研究会(Japanese Society for User-Made Medical IT System:J-SUMMITS)」を組織した。「User-Madeは本来、和製英語。正しくはEnd User Computing、またはEnd User Applicationとでもするべきだが、本会の略称を“J-SUMMITS”とするため、あえて選択した(笑)」と吉田医師。医療機関である幹事会員および、民間企業も含まれる賛助会員のネットワークは全国に広がり、医療従事者自らが、ITシステム構築を行う際の知の共有を進めているという。
「ダーウィンは進化論において、“生き残るのは、強い種でも知的な種でもなく、変化に適応できる種だ”と述べた。ここにFileMakerの選択に至る、ヒントがある」(吉田医師)
●クレームをチャンスに変える
変化に対する即応性、という観点からFileMakerを選択したのは、続いて登壇した日本ピュアフードも同様のようだ。日本ハムの100%子会社であり、食肉加工を主事業とする同社では、主な業務部門は「営業/生産/管理」に分類できるという。その部門間連携は、「多くの企業同様、電話とファックス、そしてメールに頼っていた」と同社の高橋徹氏は振り返る。
だが2002年、同社に大きな“ビジネス環境の変化”が訪れる。それは日本ハムグループの牛肉偽装事件である。時を前後して、海外および国内におけるBSE、そして鳥インフルエンザの発生もあった。
こういった事態を受け、社内では商品カルテ、検査成績、産地証明……といった各種文書が、ワークフロー上に大量に追加されることとなった。販売店、問屋、消費者からの問い合わせも急増する。従来型の部門連携では対応しきれず、経営陣からは「現場は、仕事ではなく作業に終始している」との指摘も受けたという。
オーバーフローしかけた部門間連携を円滑にするため同社では、FileMakerによる「ピュアフードコミュニケーションシステム(PCS)」の開発を決定。主な働きは、「クレーム対応」である。
「開発に当たり、“クレーム”という言葉に対する意識改革を行った」と高橋氏。従来同社では、クレームの発生に対し“顧客の減少”というイメージを持つスタッフが多かったというが、それを“顧客の維持/増加につながるもの”と発想を転換した。結果、完成したPCSはクレームの発生をトリガーに、営業支援、受発注、販促、品質保証、生産管理、商品開発にまで対応および進捗が共有され、最終的には顧客/商品マスターとの連携も図られるものに仕上がった。
従来では、クレームが発生し、営業側が生産側に対応を依頼しても、営業は「時間が掛かる、進捗も見えない」という不満を抱き、生産側には「調査に必要な情報が、営業から降りてこない」という悩みが発生することも多かったという。しかし現在は、処理をすべてFileMakerに乗せ、必要な情報はすべて入力、可視化させることで、営業によるヒアリング漏れや、生産側のチェックミスが改善されたという。導入当初は「システム化は面倒だ」という現場の声も大きかったというが、「今ではPCSをリモート環境やケータイからも利用したい」という声が上がるまでに浸透した。
「PCS導入後、減少したクレームは半期で10件。この10件に、企業を揺るがしかねないトラブルがあったかもしれないと考えると、“FileMakerの導入効果は計り知れない”と経営陣からも評価されている」と高橋氏。「開発決定から本番稼働までは5カ月弱という短期間。同様のシステムをFileMaker以外で開発した場合、数10倍のコストが掛かっただろうと試算している。費用対効果は“無限大”だ」(高橋氏)