世界で勝つ日本企業の中国攻略法
2009年11月2日(月)10時0分配信 ITmediaエンタープライズ
ソニーが北京で実施したデジタルイメージング商品のアルファ購入者向け屋外撮影体験の様子。アルファ購入者が商品を世に広めてくれるという,写真:ITmedia [ 拡大 ]
-PR-
日本の製造業は戦後活発に海外展開を実施してきた。自動車、電子機器、ゲームなどいまも世界をリードしている。だが、ここにきて、これまで海外展開とは無縁だった内需関連企業も世界を目指す傾向が明確になってきた。三井不動産は、中国の不動産市場に本格進出し、2011年をめどに現地企業と組んで商業施設を開業すると報じられた。オンラインショップを運営する楽天の三木谷浩史社長も、台湾やタイへの進出を決め、中国を重要マーケットと位置付けていることを明らかにしている。
こうした例から分かる通り、現在の日本企業による海外展開の鍵を握るのは、アジア市場の獲得といえる。経済成長を続け、平均所得の増加が見込める中国、インド、インドネシアなどの国内需要を取り込めれば、少子化という逆風を跳ね返し、成長を続けることができるからだ。
ここでは、「世界の工場」として特に注目を集め、日本企業との関係も非常に深い中国に焦点を絞り、同市場攻略のヒントを探してみたい。
●中国で30年のビジネス経験
大手商社の三菱商事で30年にわたり、機械やプラント、コンビニエンスストアの誘致などの形で中国ビジネスを手掛けてきた武田勝年氏は「技術、価格、サービスなどのうち、どこに自社の優位性があるかを見極めなければ中国での成功は100%ない」と断言する。「市場のパイが広いから行くだけでもうかる」という甘い考えは通用しないそうだ。
武田氏は、中国進出する企業に「現地企業と合弁会社を組むな」と忠告する。中国企業とは仕事の進め方、文化が大きく異なるため、真意が伝わらないことも多く、あらゆる面でスピードが遅くなるというのが理由だ。例外は、中国政府が規制をかけている業種など。保険業や広告関連など、中国企業の資本が一定割合以上含まれていなければ事業が始められないケースがある。ちなみに、中国でビジネスを始める場合の政府による制限などは、軍事や通信など国策にかかわる特定の業種以外は「実際にはそれほど窮屈ではない」としている。
中国は「社会主義市場経済」という矛盾をはらんでいるようにも見える経済体制を取っているが「実態は通常の市場経済に近い」(同氏)。
もう1つの忠告は「中国支社のトップには会社としても最も信頼できる人を据えるべき」ということ。中国人は見る目が鋭く、例えば「中国支社長」であるのに意思決定をいつも日本の本社に電話で問い合わせたりする姿を見せてしまうと、社員がその支社長を相手にしなくなるそうだ。成功の第一歩はこうした中国人の気質を理解することともいえる。
中国における成功企業として有名な資生堂も、現地の人々の嗜好を理解した上で、コストを抑えた中国専用ブランド「オプレ」を大ヒットさせている上に、日本を旅行で訪れた中国人女性が非常に高額な資生堂商品を買い込むという循環を生み出した。
中国展開で問題になるのは大きく「お金を払ってもらえるか」「中国人社員の教育」の2つだという。実際に、取引をした中国企業がお金を払おうとしないケースが多い。対策は「支払わない会社とは取引をやめる」こと以外にないという。中国に進出している大手自転車メーカーは、代金を受け取ってから出荷する前金制の採用によって、この問題をクリアしているという。
もう1つの課題が教育だ。「中国に日本人社員が行くと、コストが高い、働きが悪い」という現実があるという。中国語や文化といった壁によるコミュニケーションギャップの存在は否定できないそうだ。「できるだけ中国の人を使った方がいい」――武田氏の結論だ。その際、理解しておくべきことは中国人の価値観についてだという。
「人と人との関係が法律より重要だと思っている中国人は多い」(同氏)
何か壁にぶつかったとしても、強い信頼関係を持つ中国人を持っていれば、「抜け穴」を教えてくれるのだ。中国語で「カーメン」(仲間、きょうだい)といったニュアンスで呼び合える関係になれれば心強いと武田氏は教えてくれる。
●ソニーチャイナの挑戦
では、実際に中国でビジネスをしている企業はどう感じているのか。ソニーの中国法人、ソニーチャイナの永田晴康社長は、PCの「VAIO」シリーズの中国展開について「最低限の在庫を持ち、売れたら補給する」という手法で乗り切ったと話す。例えば、1つの電器店であるモデルの在庫を4台と決めたら、1台売れたらその都度1台を追加補充する。これにより、流通在庫を必要最小限に抑えることができたという。
このやり方を1年前からテレビやカメラなどでも活用した。結果として、流通在庫が前年の半分に減った。自社在庫も半減したことで「経営的に非常に良いインパクトがあった」と話す。家電業界では、カメラなどの商品の価格が下落すると店舗や物流経路にある流通在庫の価値も下がるため、その分の補てん金をメーカーが支払うことになっているという。
「流通在庫が少ないということは、この補てん金の負担も少なくて済む」(永田氏)
補てん金が少なくて済むことで、すばやい意思決定ができるようになる。「在庫がたくさんあるから次の行動に移れない」といったケースは通常よくあることだという。キャッシュフロー上の効果も高く、金融危機を切り抜けられた要因になった。今後景気が良くなったとしても、この流通モデルは維持していく考えだ。
永田氏は、最近の中国経済の状況について「リーマンショックによる金融危機以降、株価、輸出、不動産取引ともに低調になり、唯一のよりどころは中国政府が8%の経済成長を維持するとアナウンスしたことくらいだった」と振り返る。だが、「成長率が何パーセントであれ、プラスじゃないか。マイナスに陥っている他国に比べればずっとまし。中国経済は復活する」と単純化した考え方で構えた。4〜9月はだめかもしれないが、10月以降は景気が戻ってくるという予測を変えずに、10月実施の予算見直しに臨んだ。
中国の景気について永田氏は数値を詳しく把握している。GDP(国内総生産)が2008年第4四半期で7%を切り、2009年1〜3月の第1四半期で6.2%、だが4〜6月の第2四半期は8%近くまで戻ってきているという。だが、これは中国政府による4兆元(約60兆円)の投資といった施策によるもので、輸出は戻ってきていない。米国、欧州の景気回復待ちという状況だとしている。
消費については自動車がけん引しているが、家電については「5%くらいしか伸びていない状況だ。これも悪くない数字だが往時と比べると弱い」。一方で、製品の価格下落によって家電製品を購入する市場のパイが着実に広がっているのも現実だ。
「テレビは台数ベースでみて対前年で4、5割も伸びている。いまどき台数で4、5割伸びる製品はない。北京や上海といった都心から、郊外の居住者に購入層が広がっている」(永田氏)
この傾向は、テレビだけでなく、ノートPCなどにも及んでいる。台数が伸びている事実は成長分野である証明であるため、この波にいかに乗るかを常に考えているという。
●上がる購買力
永田氏は、現在の日本企業による海外進出について「基本的には、これまで日本企業がやってきた海外展開と変わらない」話す。狭い日本だけでなく、成長の機会を外に求めたのは今始まった話ではない。だが「中国人の購買力向上は非常に魅力的」とも指摘する。
現実的には、特に中国には国産ブランドが強い力を持っているケースが多く、商品カテゴリーごとに状況がだいぶ異なっている。デジタルカメラ市場はローカルブランドがほとんどないため、市場は「ソニー vs. キヤノン」あるいは「ソニー vs. Samsung」のように、外資系企業同士の争いが激化している。このように、ローカルブランドの存在感があまりない分野については、外資系企業が入り込む余地が十分ある。
一方、テレビ市場には十数社のローカルブランドがひしめいている。全体の売上高でいえば「6〜7割近くをローカルブランドが占め、残り3割の中にソニー、シャープ、Samsungがいる」。デジカメとは違い、競争相手がローカルブランドに向かった途端に、液晶パネルの調達方法、政府が国策でローカルブランドに税制面の優遇措置をとっていることなどさまざまな競争の論理が働くという。
中国でビジネスを展開する上で何が鍵を握るのか。国土も広くて人口も多い中で、販売のネットワークをどう設置し、どのように商品を届けるかが鍵を握る。また売った後のサービスについて、どれだけのサービスステーションを設けるかも重要だ。販売ネットワークとサービスステーションの2つは「中国ビジネスの成否を左右する販売インフラ」と永田氏は位置づける。インフラを整えなければ販売エリアを点から面というようには拡大できず、面にできなければ売上高を上げられない。
CRTテレビの時代からローカルブランドはこうした販売インフラを整備していた一方で、ソニーを含めた海外ブランドはインフラを現在も構築中という状況だ。政府は「農村にテレビを」という取り組みに着手しており、ローカルブランドに優位に働くような仕組みが現実にある。
今後、中国は液晶パネルを国内で調達する体制を整えると見込まれており「液晶ディスプレイの生産拠点として中国の存在感が高まりそう」(同氏)な状況にある。米国では2008年、「VISIO」と呼ぶ格安の液晶テレビが突然登場した。
これは、中国の工場で製造されたテレビに米国企業がブランドだけを付与したようなイメージの製品だ。アパレル業界によくみられるビジネスであり「これまでのテレビ業界のやり方とはまったく異なる」。ソニーにしてみると、また1つ難しい戦いを迫る要因が増えたことになる。
日本を代表する企業といえども、中国でのビジネスは一筋縄ではいかないようだ。特集「世界で勝つ 強い日本企業のつくり方」では、中国を含め日本企業が現在取り組むべき海外展開のヒントをビジネス、IT、文化などさまざまな側面から提示していく。【怒賀新也】