「有効性」を重視する企業が経営で沈まない理由
2009年11月6日(金)11時30分配信 ITmediaエンタープライズ
(表2)エンタープライズ・エフェクティブネスがCIOの自信に影響する(出典:ガートナー),写真:ITmedia [ 拡大 ]
-PR-
日本では使われない経営用語ですから、正確に定義をしておきましょう。エンタープライズ・エフェクティブネスとは「戦略や計画に基づく目標を達成する能力を持つこと」です。
前回のコラム(※)で、「経営者が自信を失っている」と書きました。なぜ自信を失っているかといえば、自身が経営する企業が目標通りの成果を達成できていないからです。目標未達の原因や課題の本質を可視化できていない時などはなおさらそう感じるでしょう。
※http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0910/01/news009.html
自信を持てなくなった経営者は、先行きが不透明な経済環境の中で、どう経営の舵取りをすればいいでしょうか。多くの経営者は「効率性を高めよ」と命令します。極端な場合は「一切の支出を許さない」と断言してしまいます。特に日本の経営者は、目標達成が難しいとなると、突然「欲しがりません、勝つまでは」戦略を取ってしまいがちです。
節約や節減が悪いとはいいません。むしろ、きちんと節約、節減してほしいと願っています。しかし、どんなに節約を徹底しても、それだけでは企業の成長はかなわないのです。日本の経営者は「成長」に対する定義があやふやなこともあるためか、伝統的に節約や節減が得意になっている節があります。
●エンタープライズ・エフェクティブネス
「困難な局面に対して、エンタープライズ・エフェクティブネスを高めることで立ち向かってほしい」
「Gartner Executive Programs」において、景気後退期にある2009年に世界中のCIO(最高情報責任者)に向かって、わたしはこう言いました。
「Gartner CIO アンケート調査」では、過去8年にわたりエンタープライズ・エフェクティブネスについての調査を継続してきました。2009年の調査では「昨年対比でIT予算を減少させなければならない」という調査結果が初めて出ました。これは過去8年間で初めての結果です。またGartnerとMIT Sloan School Center for Information Systems Research(MIT)の共同研究の結果、景気変動と企業の財務状況、そしてエンタープライズ・エフェクティブネスの間にある関係性を見いだすことができました。
GartnerとMITが2009年における企業のエンタープライズ・エフェクティブネスを分析したところ、このレベルが高い企業は、調査を実施した過去8年間のうち6回で、競合他社よりも財務実績が上回るという結果が得られました。また2007年の財務実績から、エンタープライズ・エフェクティブネスの高い企業を調べたところ、次の特徴が出てきました。
・資産利益率(ROA)――企業全体の平均を90%上回る
・自己資本利益率(ROE)――企業全体の平均を40%上回る
・投下資本利益率(ROI)――企業平均ではマイナスだったが、エンタープライズ・エフェクティブネスの高い企業は+10.6%だった
財務実績の面を見ただけでも、エンタープライズ・エフェクティブネスに興味を持っていただけたのではないでしょうか。
●ビジネス面での優先事項を解決できる
「Gartner CIO アンケート調査 2009」では、エンタープライズ・エフェクティブネスの設問を顧客ごとに集計して点数を付け、点数の高い順に「リーダー層」「チャレンジャ層」「上位フォロワー層」「下位フォロワー層」と4つのレベルに分類しました(※)。
※http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0911/06/news006_2.html
この層ごとにほかの設問結果と比べると、次のような結果が得られました。
・エンタープライズ・エフェクティブネスが高い順に、CIOが、CEO(最高経営責任者)に対してレポーティングをする割合が高い。
・エンタープライズ・エフェクティブネスが高い企業は、IT予算をビジネスの成長や変革に使う割合が高い。
同調査で、CIOに「ビジネス面での優先事項」を聞いた時に、この課題を翌年中に解決できる自信があるかということも、同時に尋ねました。その結果が表2(※)です。エンタープライズ・エフェクティブネスが高い企業ほど、自信を持っている程度が高くなります。自信に差が出るのは、景気低迷期に見られる共通の特徴です(景気がいいときは、エンタープライズ・エフェクティブネスに関係なく、みなさまが根拠なき自信を持ちます)。
※http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0911/06/news006_2.html
エンタープライズ・エフェクティブネスのレベルにより、「ビジネス面での優先事項」や「CIOの戦略」にも大きな影響を及ぼします。
「ビジネス面での優先事項」をレベルごとにクロス集計した結果が表3(※)です。リーダー層では、「新商品やサービスを開発する(イノベーション)」が3位です。この項目は「企業の外側にいる顧客への働き掛け」であり、1、2位の「企業内部への働き掛け」とは対照的な取り組みです。企業の競争優位の源泉を生み出すこととも言い換えられます。不況の中でも、常に時代の先を行こうとするリーダー層の意気込みが見受けられます。
※http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0911/06/news006_2.html
イノベーションの項目は、チャレンジャ層では5位、上位フォロワー層では7位、下位フォロワーでは8位です。エンタープライズ・エフェクティブネスが低くなるほど、顧客に目が向かなくなり、他社との競争優位を考えなくなってしまうのです。
一方で、リーダー層の5位である「要員の業務効率を改善する」という項目は、ほかの層では3位です。これは企業内部への働き掛けであり、リストラ(従業員の解雇)につながるものです。
ビジネス面での優先度がビジネス部門からの期待の表れとするならば、エンタープライズ・エフェクティブネスの高い企業は、ビジネス部門が顧客へのサービス、商品のソリューションや規模を向上するために、ITを積極的に活用しているのです。エンタープライズ・エフェクティブネスの低い企業は、IT部門にテクノロジーやサービスの提供のみを期待している点を見れば、対照的であるのが分かります。
ビジネス部門がCIOやIT部門に期待する優先課題が、エンタープライズ・エフェクティブネスによって異なるという結果からは、IT部門が戦略的な価値を生み出せる能力を持っているか否かという判断ができます。つまり、IT部門に能力がなければエンタープライズ・エフェクティブネスのレベルは高くないし、その逆も然りです。
エンタープライズ・エフェクティブネスを高める第一歩は、IT部門が戦略的な価値を生み出せるように、CIOがその能力を育成していかなければならないのです。
●先行きが不透明だからこそ「有効性」を
表4(※)からは、CIOがビジネス上の優先課題をIT部門の戦略的優先課題に転換して対応していることが分かります。この優先課題には、企業のエンタープライズ・エフェクティブネスが映し出されます。また優先課題からは、CIOの戦略が、ITの運用における基本事項からビジネス部門と連携することに進化していることが読み取れます。
※http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0911/06/news006_3.html
CIOはこれまで、ガバナンスなどいわゆる「ITのコア領域」に焦点を当てた業務を担当してきました。それが変化しているのです。コア領域の強みを生かして、自身の役割を拡大させています。エンタープライズ・エフェクティブネスの向上に注力することで、ビジネス部門だけでなく、IT部門への期待事項にも影響を及ぼすことが可能になります。
先行きが不透明な今だからこそ、効率性だけでなく、エンタープライズ・エフェクティブネスの向上が求められています。効率は、比較的余裕のある時期に悪くなります。資金があると、精査せずに使いすぎてしまったり、実力以上の投資をしてしまうからです。
企業は今、時間はあっても資金がないという現状に直面しています。すなわち「何もできない状態」であり、効率アップとは無縁の世界にいます。表4の結果からは、そんな今だからこそ、経営の自信につながる目標達成能力であるエンタープライズ・エフェクティブネスに注力すべきだという解答が導き出せます。
●経営者が心掛けておくべきこと
エンタープライズ・エフェクティブネスは、目標達成能力の高さを示すものです。経営者の方は、その目標を適切に設定しているでしょうか。売り上げや利益率を上げることを目標にしていませんか。そして利益率を上げるためにコスト削減を掲げ、IT関連の費用のみを減らすことに躍起になっていませんか。
IT費用は、企業の運営に必要な総費用の何%にあたるのでしょうか。もし大部分を占めているなら、頑張って減らしてください。しかし、ほとんどの企業はそうではありません。そんな企業は、IT費用よりも企業のコスト全体をどう減らすかを考え、そこにITを活用して効果を出すようにしましょう。
CIOや経営者に話を聞くと、コスト削減に注力しても、思いのほか結果を出すことができなかったという人が大半でした。コスト削減をもたらすのは、顧客へのサービスの質を高めたり、製品のライフサイクルを短くしたりするといった取り組みなのです。それは同時に、他社との競争優位性を生み出します。
おそらく、日本のほとんどの経営者は、直接的な指標だけにとらわれすぎて、企業の価値や理念を忘れてしまい、目先のキャッシュアウトだけに目を光らせてしまうのでしょう。あなたは、なぜ経営者になり、企業を運営しているのですか? あなたの経営する企業はなぜ市場に存在しているのでしょうか? 改めて考え直してみる必要があります。
ITは万能薬ではありません。あなたの崇高な目標を達成するために、とても頼りになる道具ですが、その目標が財務観点だけでは、目標達成は不可能です。そんな浅はかな考えをしていると、顧客や従業員、取引先から見透かされてしまいます。
コストを削減して、利益を上げる――その先にビジョンはありますか? 経営者であるあなたの責任において自分で考え、実行していくのです。あなたがもしこれらのことを他人事にしていても、それはすべて見透かされる結末なのです。
企業規模が大きくなれば、そんなことは考えなくても「当社だけは潰れることはない」と考えているでしょう。1998年3月まで山一證券に勤めていたわたしが断言します。「そんなことはない、あなたの会社も潰れます」と。あなたが経営者だったお陰で潰れてしまいます。経営するということに自覚と責任を持って、会社の明日に向かって夢を語ってください。あなたの部下達が、生き生きと働けるように。【小西一有(ガートナー ジャパン)】