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情報システム

大前研一の辛口ニッポン応援談(前編)

2009年11月9日(月)8時30分配信 ITmediaエンタープライズ

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インドネシアが面白いと語る大前氏,写真:ITmedia [ 拡大 ]

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 日本企業の国際化は太平洋戦争が終わった直後からはじまった。ソニー、本田技研工業、パナソニックといった第一陣が必死になって欧米市場に出て行き、それに続いて今ではほとんどの企業が海外に進出している。僕自身40年近くコンサルタントとして国際化の手伝いをしてきた。今に始まったテーマではないが、民主党政権になって日本企業はますます海外へ出ていかざるを得なくなるだろうね。

●日本企業は世界へ出ざるを得ない

 民主党のマニフェストには産業政策について一言も書かれていない。産業界からみると何をやりたいのかが見えてこない。ソフトウェア産業や環境、福祉、介護といったところに力を入れるといっているが、普通の日本企業はIT業界も含め、そうした分野以外の産業が多い。社民党と連立を組んでいるところをみれば労働者保護は熱心にやるだろうが、裏を返せばそれは労働環境・条件が硬直化して国内でのビジネスチャンスはなくなるに等しい。

 米国でも民主党政権はそういう傾向がある。どのみち民主党は産業政策は苦手だろうから、当面、国内市場には希望は見えてこないのではないか。つまり今こそ世界に出ていくべきというより、出ていかざるを得なくなるというのが本当のところだろう。

●中国、インドよりもインドネシアが面白い

 海外のマーケットといえば、まず中国とインドが挙がるがこの2国は非常に難しい。中国は労働コストの安さから各国とも生産拠点、輸出基地として位置づけたが、最近労働法が変わってしまい、労働コストが上がり、雇用も硬直化し始めている。いま盛り上がっている中国国内の内需に関しては、いままではあまり手掛けてこなかった。最近になってようやく手を付け始めたが、売掛金の回収、コピー商品の防止といった問題もあり非常に難しい。何よりも中国全土に35万くらいある小売業、販売拠点をカバーするのが大変だ。

 中国では代理店、卸などの制度があまり発達していない。このため信頼できるローカルパートナーと組んでいかないと、自社で中国全体をカバーするのは難しい。イトーヨーカ堂が10年前から進出しているが実質的にはまだ3都市、13店舗の展開だ。中国には100万都市が220あるから、これでは氷山の一角、表面を2センチ程度削ったぐらいだ。

 インドは日本だけでなく世界中の企業が苦手にしている。国土は広いし、人口も全国的に散らばっていて、どこがへそになるのかがよく分からない。道路がないような村もいっぱいあるし、雨が降れば洪水になって車が入れないところもある。そういうところをすべてカバーして小売りで成功するのはかなり難しい。

 インド企業でさえ、全国をカバーできている会社は少ないからね。Reliance財閥なんかは小売りをやろうとしているようだが、(インド最大の財閥企業)Tataでもそれだけのネットワークは持っていない。日本企業ではスズキが一時は7割、今でも5割のシェアを持っている。大健闘、と言ってよいだろう。

 インドはどちらかというとITのオフショア開発、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を得意として世界に向けて活躍してきた。Wipro、Infosys、Satyam Computer Services、Tata Consultancy Servicesといったところがそうだが、国内向け、いわゆるCPG(消費財:Consumer Packaged Goods)は苦手だ。

 Unileverなど英蘭系の会社には100年近く操業している企業が幾つかあるが、国の規模に比べると売り上げは小さい。この先、国内マーケットは当然大きくなると思うが、インドは高級セグメントとBOP(ピラミッドの底辺、Bottom of Pyramid)という、2つの異なるマーケットが両方とも発達してきているから、どちらを狙うか決めないといけない。それから、普通の年収である5000〜3万5000ドルの中流といわれる層だけでも2億人と日本よりも多い。こうした異なるセグメントをどう攻めていくのか、参入前に研究すべき課題も多い。そのためには特定のパートナーを見つけるか、インドをどうしてもやりたいという人間を採用してやらせるか……。どのみち20年かかるだろうね。スズキもそうだったし。

 もっと短期的に面白い市場はインドネシアだ。極めて有望で親日的。日本企業もたくさん進出していて、成功確率もインドや中国に比べると非常に高い。人口は2億4000万人、消費も非常に活発になってきている。スシロ・バンバン・ユドヨノ大統領が就任1期目に非常にいい政治をやったんだ。2009年8月の選挙で再選され10月から2期目に入った。向こう4、5年は安定した成長が見込めるんじゃないかな。日本企業でも現地に入って、インドネシアの人たちをマネジャークラスに登用して非常にうまくやっているところがあるけれど、年率50%で伸びている。日本じゃ考えられない。いずれインドネシアでの売り上げが国内を抜くような日本企業も出てくるだろう。

 すでにヤマハ発動機は主力工場や輸出基地などを浜松からインドネシアに移している。日本国内だとバイクはピーク時の10分の1だからね、そんなところで将来を考えていてもしょうがないわけだ。今はDaimlerになった旧三菱ふそうトラックもインドネシアでは強い。大塚製薬のスポーツドリンク、ユニチャーム、マンダムなんかもインドネシアでは強い。

●戦後の米進出の経験を生かせ

 これまで日本企業が米国に進出してきた経験が生きるのは、「コミットしたら20年やり続ける」ということだろうね。インドに対して20年コミットしてやり続けるという決意を持っている企業はまずない。みんなが行くからうちも、といった程度であろう。インドに送り込んでいる人材を見ても、本社の課長クラスだ。

 米国進出のとき、例えばソニーは盛田昭夫氏自身がやったし、ホンダでもどこでもそうだけど、米国法人のトップをやったら将来は日本法人の社長になるような人材、トヨタでいえば張富士夫氏がその例だけど、そうした人物がやってきた。

 自動車でいえばカリフォルニアからスタートして、南部に行って次に東部に行って最後にデトロイト周辺の中西部と、スムサ(SMSA、Standard Metropolitan Statistical Area、標準大都市圏)とよばれる日本でいう中核自治体みたいなところが2000くらいあるんだけど、そこを全部カバーしなければいけない。

 それをちゃんとカバーしてディーラーを設置してサービス網を拡充し、ブランドを浸透させるのに、最低15年、普通は20年かかる。こういう覚悟で中国やインドを攻略しようとしている企業があるかといえば、ほとんどみたことがない。

 ソニーは主として営業を見ていた盛田さんがアメリカに400回行ってるんだ。そのうちの何年かは家族で現地に住んでいた。そういう人が乗り込んで行って米国市場を開拓する。こうしたコミットメントがインドや中国にも、そしてインドネシアでも必要だと思うが、多くの企業はせいぜい中国で部長クラスの人間を社長に送り込んでいる程度。インドだと課長クラスというところも多く、(成長の全く見込めない)国内にくらべて明らかに過小投資だ。インドネシアだったらもっと若い人間が送り込まれる。20年かかるので、若い人を送り込むのはいいのだが、その人たちも少し成功すると転勤を命じられてしまう。国内人事制度の一環として海外人事をやる、というところが問題なんだ。

 欧州は今や人口が約5億人おり、2億5000万人の米国を凌ぐ世界最大の市場になった。しかし、日本企業のEU市場対応はだいぶ遅れてしまった。進出が早かった分、国別組織になってしまっていて、汎ヨーロピアン戦略というか、EU全体の戦略を遂行するための組織がない。国別が精いっぱいで、ドイツ会社、フランス会社……、イタリア会社あたりで力尽きてうまいくいかない、っていうのが多い。

 スポーツ用品メーカーのNikeなどは今から10年前にベルギーのロックダールというところに中央物流センターを作り、ロッテルダムで荷揚げした商品をすべてロックダールに集めてEU内なら24時間以内にどこにでも納品できるシステムを作った。

 他にもスペイン北西部のラ・コルーニャに本社があるZARA(インディテックス社)というアパレルメーカーも、本社の物流センターにはトラックがずらっと並んでいる。欧州全域に24時間以内に配送できるんだ。トラックでまかなえないところは飛行機。DHLが並んでいて、全世界48時間以内でカバーしている。

 そういう物流システム、マーケットそのものが1日で全部到達できるというような感覚を、システム構築にまで持ち込めたところがまだ日本企業にはないね。ZARAはトヨタの「ジャスト・イン・タイム」から学んでシステムを作ったと言っていたが。欧州を世界最大の市場として国別組織を撤廃し、かつて米国でやったような密度の濃い戦略をやっていく必要があるだろう。そういうところが日本企業の大きく遅れた部分として浮かび上がってきた(詳しくは11月6日に朝日新聞社から発売された「衝撃:世界最大の超国家EUパワーの誕生!」参照)。

●企業の国際化はITインフラが鍵をにぎるのか

 もともと日本企業はERPの活用が苦手だ。個別システムとしては非常にいいものを持っていても、購買と設計や生産とのリンクなどを考えると、実際にはERPの使い方が下手、ほとんど全社システムとしては使えていないのが実際だろう。ヨーロッパ戦略にしても国別にバラバラに開発してきたものを統合していかないといけないわけだが、その辺の移行がまだできていない。

 カスタマー側のCRM(顧客関係管理)システムとSCM(サプライチェーンマネジメント)を1つのERPのプラットフォーム上で統合、しかも国別にやってきたものを統合してはじめてグローバルシステムができるわけだけど、この作業は普通着手してから4、5年はかかる。ところがこれをきちんとやっている企業を見たことがない。そもそもそういうことができる人材を自社内に抱えておらず、いわゆるITゼネコンに金だけ払って空中分解している企業も多い。

 本来はCEOがCTO(最高技術責任者)を兼ねるくらいでないとだめだが、概ね日本企業の経営者はシステムに弱い。さらにクラウドコンピューティング時代に入って、社内のコンピュータシステム部門の人間も時代遅れになってきている。アベイラブル(available)なシステムが雲の向こうから降ってくるかもしれないというときに、後生大事に箱ものを抱えているというレガシー野郎が実に多い。

 グローバルとは何かというと、基本的にはシステムといえる。だから経営トップがこのあたりを勉強して指揮できるレベルにないといけない。システムについて熟知していて、何をやるべきか、何ができるかということは分かっている、こういう状態からスタートしなければ。しかし現実は社長がEDP(Electronic Data Processing)に丸投げし、そのEDPは素人の集まりで、これまた外部にマル投げする“取り次ぎ野郎”の集団、というのが大半の日本企業の姿だろう。

 例えばCisco Systemsで会長兼CEOを務めるジョン・チェンバーズ氏は、IBM出身の営業担当者だが技術についてもよく研究している。当時CIOだったエド・コゼールと一心同体でシスコのバーチャル・シングル・カンパニー(VSC)を作り上げた。このVSCは世界最強のシステムだが、設計コンセプト自体はトップが構想している。コーディングや、システムのメンテナンスなどは社外に出してもいいが、基本設計は自分でできないと。この二人は理想のコンビだった、と言っていいだろう。

 このVSCはシスコ・コネクション・オンラインというWebサイトを中心に百数十の企業が協力するという、いわば「Web型」組織といえる。このコンセプトを使えば、4、5人の優秀な社員で巨大企業が運営できる。あとはアウトソーシングやシステムそのもので十分だ。機能別の組織を持つと、企画できない人材が企画部に、システムが分からない人間がシステム部に入ることになり、全事業部がガラパゴス化してしまう。実際ジュラシックパークみたいな日本企業は多いよ。

●グローバル化=人材の最適化

 グローバル化というのは人材の最適化でもある。すべてのものを全世界でリーズナブルなものにしていく、ITも含めた経営システム然り、人事然り。

 世界には日本人以外の優秀な人間が山のようにいる。こうした優秀な人材をグローバルに集めてやっていかなければならない時代に、日本人だけでやろうとしても無理がある。日本人しか使えないという社長はもう降りないといけない。米国の会社にはインド人がどこにでもいる。Fortune 500に入る企業のうち300社以上は副社長以上のポジションにインド人が就いてるんじゃないか。

 彼らは本当に優秀だし、方法を間違えなければすごい力を発揮する。しかし、こちら側の能力がないと理屈や口上ばかり述べて使いものにならない。日本企業はほとんどインド人スタッフを使えていないのが実情だ。

 人材の世界化、システムの世界化、商品コンセプト・開発の世界化……。クラウド・ソーシングを使って、自社の研究開発能力の10倍くらいの能力を発揮しようという時代に入っているのに、日本の企業トップと話していると「それってわれわれの時代には起こりませんよね」なんて言ってくるんだ。

 話にならないね。この10年間で経営者が勉強しなければいけなかったことはその前の10年間に比べたら10倍あった。その大半がテクノロジーで、CEOはそれを理解した上で自社に導入すべきか判断できないと経営できない。経営者と経営ツールのミスマッチがいま非常に大きくなっていることが問題だ。

●アンビションのない日本人

 日本人は、明治以降、戦後20〜30年くらいまでは優秀だった。しかし今や学校は世界のどこに出しても恥ずかしい人間しか作り出さない。ぼくはこれを「大脳が盲腸化した!」と呼んでいるが、そういう人間を社内の教育担当部門に入れてもダメ。教える方が20年前の人間だからね。おまけに日本人は、ますます小さな幸せを求めて満足するようになってしまった。若い人もアンビションがなく「草食系男子」なる言葉が流行っている。せめて女子が世界に出て活躍してくれればいいが、大脳の盲腸化は文科省が病原菌を撒いているので男女共通だ。

 留学もしたくない、海外にも赴任したくないと。入社したときに社長になりたいと思っている若いヤツは2割もいない。取締役になった人に聞いてみても、7、8割がこのポジションでいい、社長にまではなりたくないと答える。いままで日本人がこんなアンビション(野心、大志)のないことはなかった。

 松下幸之助なんか英語もできないのに世界に出掛けていった。ぼくが教授をやっている韓国の大学で見ていれば分かるが、アンビションの塊みたいな人間ばかりだ。中国に行けば、韓国が生ぬるく感じられるくらい競争が激しい。一方、日本には世界のどこに出て行っても勝負するぞという気構えで育ってきた人間がほとんど見られない。

 このアンビションの違いこそ、今後の日本を考えるときの最大の問題だろう。残念ながらこれを解決する手段はない。会社としてはそういうアンビションを持った人、韓国人でも、オーストラリア人でも、インド人でも、そういう人材を雇っていくしかないんだ。アンビションのない人がマジョリティになると会社全体がよどむからね。

 時代はLCC(Low cost career)、マレーシアのエア・アジア航空なんかが圧倒的に強くなっている世界の航空業界において、内側の理由ばかりを言う今のJAL(日本航空)が良い例だ。その建て直しを政府主導でやろう、なんて言っている民主党政権も劇甘だ。国境のない空を飛ぶ飛行機会社に日本の論理を入れ、日本人主体で経営しようとする限り解決策はないよ。利用客にそっぽを向いて自己中の再建策ばかり練るJALは一度倒産させればいいんだ。不便にはなるかもしれないけど、誰も困らないよ。その間、頭冷やして本当にJALが必要なのかどうか、考えたらいいんだ。どうしても不便だとなったら、アジアのLCCを国内便に入れてやることだ。料金が数分の1になることは間違いない。

 ポカリスエットを作っている大塚製薬のインドネシア法人は社長は日本人だが、あとは1500人全員がインドネシア人だ。世界でもっとも安くて優秀な人間を採用して自分の会社に骨を埋めさせる。これがノウハウとして一番重要になるだろうね。(談)








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