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海外総合

医薬品の次期ヒット作は海から

2009年5月15日(金)19時27分配信 ナショナルジオグラフィック

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 新しい医薬品を生み出す源泉は陸上では枯渇してきているのかもしれない。次世代医薬品の大ヒット作を狙う“医薬品ハンター”は次々と海に飛び込み始めている。 海洋微生物を専門とするネレウス・ファーマシューティカルズ(Nereus Pharmaceuticals)社は、バハマ諸島の海草(写真下)で成長する菌類から腫瘍を治療する医薬品(写真上)を開発し、現在臨床試験を行っている。Photograph courtesy Nereus Pharmaceuticals [ 拡大 ]

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 新しい医薬品の源泉は、陸上では枯渇してきているのかもしれない。次世代医薬品の大ヒット作を狙う“医薬品ハンター”は次々と海に飛び込み始めている。研究者たちが新しい抗生物質やがん治療薬を探し求める中、医療目的で海洋生物を採取する生物資源探査(バイオプロスペクティング)が近年活発化している。

 ネレウス・ファーマシューティカルズ(Nereus Pharmaceuticals)社の社長コビー・セトナ氏は、「海洋微生物を取り巻く自然環境は、まだ開発が進んでおらず、多様性にあふれている」と話す。同社はアメリカに拠点を置く海洋微生物専門の小規模バイオテクノロジー企業だ。

 過去50年間にわたって医薬品開発競争が繰り広げられる中、地球の青き領域に目を向ける者はほとんどいなかった。しかし、これからは海を無視することはできないと専門家たちはみている。

 生物の分類では「界」の下に「門」という区分がある。「動物界を36門に分ける説に従えば、陸上には17門、海洋には34門が分布している。つまり、海洋は地球上で飛びぬけて生物多様性に優れた環境であり、医薬品開発において見過ごすことのできない源泉だ」と、アメリカにあるカリフォルニア大学サンディエゴ校の海洋学・薬学の専門家ウィリアム・フェニカル氏は話す。

 現在、海洋生物に由来するおよそ25種の医薬品が臨床試験中で、バクテリアや海綿動物、あるいはホヤなど海中に住む尾索(びさく)動物がそのターゲットになっている。

 生物利用の医薬品開発が大きな節目を迎えたのは1928年のことである。この年の9月、イギリスの細菌学者サー・アレクサンダー・フレミングが、バクテリアの培養皿に起きたわずかな異変に気が付いた。偶然にも別の実験室からアオカビの一種、ペニシリウム・ノタータム(Penicillium notatum)の胞子が空気中を漂いながら培養皿に付着し、バクテリアの一部を死滅させていたのだ。

 この発見が世界初の抗生物質「ペニシリン」に結実し、世界中に広まった。それ以後、同じような医薬品の開発を目指して、地球各地の森林地帯や未開地の探検が精力的に行われることになる。今日の主要医薬品の過半は、天然の“貯蔵庫”から生まれたものだといわれている。

「しかし1970年代に入ると地上の微生物は完全に探求され尽くしてしまい、視線を海に向ける“パイオニア”たちが現れ始めた。海の生物は地上では得られない化学的性質を持っているからだ」と、フェニカル氏は話す。

 光が皆無に近く温度が非常に低い厳しい環境で、海洋生物は独自の生存戦略を採用してきた。地上の人間には想像が及ばないユニークなその術は、医療に多大な貢献をする可能性がある。「彼らの何億年もの進化の歴史を利用すれば良いのだ」と、前出したネレウス社のセトナ氏は話す。

 奇跡的な次世代医薬品を求めて地上の熱帯雨林を渉猟する企業に対しては、環境保護団体が批判の声を上げるものだ。他方、海洋生物資源探査の場合、環境に対する影響はほとんどないと専門家は判断している。採取する生物がごく微量で済むためだ。

 カナダにあるブリティッシュ・コロンビア大学の化学者で、海洋生物の代謝産物を研究しているレイモンド・アンダーセン氏は、「初期の海洋医薬品開発は抗生物質とがん細胞治療薬に集中していたが、現在ではさまざまな分野に広がっている」と話す。

 例えば海綿動物や菌類などの海洋生物には、ある種の腫瘍が分泌する体内酵素「インドールアミン2,3ジオキシゲナーゼ」を抑制する化合物が含まれている。「インドールアミン2,3ジオキシゲナーゼは、免疫反応を欺いて腫瘍への攻撃を止めさせてしまう」とアンダーセン氏は話す。

 また、海洋生物が持つ化合物の中には、白人に広くみられる嚢胞性線維症(のうほうせいせんいしょう)という遺伝性疾患に対する“中和剤”となるものもある。嚢胞性線維症は、体内分泌液の粘度が増しさまざまな症状が発症するが、海洋生物由来の化合物を活用すれば、体内タンパク質が細胞膜に達する経路を滑らかにすることができる。そこでタンパク質は気道の感染症を防ぐ上で欠かせない粘液産出機能を回復していく。

 アンダーセン氏の研究所では、2つの化合物が臨床試験のフェーズ2(100〜300人規模で有効性や安全性の試験を行う)に入っているという。軟部組織がんと喘息(ぜんそく)の治療がその目的だ。

 ネレウス社でも、2つの医薬品が臨床試験中だという。1つはバハマ諸島の海草で成長する菌類から作り出されたもので、現在フェーズ2の臨床試験を行っている。この医薬品は腫瘍の脈管系を破壊する機能があり、化学療法と組み合わせることにより、非小細胞肺がん(NSCLC)治療に効果が期待されている。非小細胞肺がん患者の平均生存率はわずか7カ月である。

 2つ目は海洋堆積物中のバクテリアから採取されたもので、タンパク質を分解する強力な酵素「プロテアソーム」から、抗がん作用のあるタンパク質を保護する。この医薬品は多発性骨髄腫や黒色腫、肺がん、膵(すい)がんの患者を対象としており、現在、臨床試験のフェーズ1(20〜80人規模で適性投与量や安全性の試験を行う)が完了したところだという。

 しかし現段階では、海洋生物資源探査はその支援者が望むような大きな成果を上げていない。その理由の1つに、大手製薬会社が本気になっていないという点がある。資金投入量も少なく、まだ遠くから様子を見ている状態だ。

「いま、大手製薬会社の役員会議で海の話を持ち出したら笑われるだけだろう。しかし、海洋医薬品が本格化するのは時間の問題だ」と、ネレウス社のセトナ氏は話す。「2〜3年のうちに開発に成功し、製薬会社が次々と買い求めるようになる。そしてこう尋ねてくるはずだ。『どこでこれを手に入れたんだ?』、『量産は可能なのか?』ってね」。

Christine Dell'Amore for National Geographic News

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