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“光子通信”、未来の暗号化通信技術

2009年6月8日(月)17時39分配信 ナショナルジオグラフィック

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 第二次世界大戦時にドイツ軍が使用していたエニグマ暗号機(2004年11月撮影)。イギリス、ブレッチリー・パークの暗号解読をテーマとした博物館に展示されている。1945年に終戦がもたらされたのは、連合国がこのエニグマ暗号を解読したことが大きな要因になっていたという。 2009年6月、オーストリアの物理学者チームによって量子暗号化技術が進展した。今後は暗号化された機密情報の送受信を第三者に傍受されても、犯人を即座に特定できるようになるかもしれない。Photograph by Ian Waldie/Getty Images [ 拡大 ]

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 オーストリアの物理学者チームが、“もつれ合い光子対”を144キロ先まで送信することに成功した。今後は暗号化された機密情報の送受信を第三者に傍受されても、犯人を即座に特定できるようになるかもしれない。

 もつれ合い光子対とは、同時発生した2つの光子が独立値をとれず、まるでもつれ合ったような状態にあるペアのことを言う。もつれ状態にある光子対では、一方の波としての振動面の向きの測定結果から他方の傾きがすぐさまわかる。お互いがどんなに離れていても、一方の状態が他方の状態と密接に結びついて影響し合うという性質をもつ。アインシュタインが“不可解な遠隔作用”と呼んだ量子レベルでの不可思議な相関関係だ。

 このような性質は、機密情報を暗号化して送信するのに適していると考えられている。メッセージの傍受そのものを防ぐことはできないが、誰かが傍受を行った場合は、もつれ合い光子対の性質を利用して犯人をすぐに特定できるためだ。

「回線上にスパイがいれば、それがすぐにわかる」と、今回の研究のメンバーでオーストリアのウィーン大学に在籍するアントン・ツァイリンガー氏は言う。

 しかし光子ビームはすぐに減衰してしまうため、光子を遠くまで送信することは難しい。懐中電灯で近くを照らせば明るいが、対象物が遠くなるほど光が弱まるのと同様に、通信距離が遠くなれば遠くなるほどもつれ合い光子の検出も困難になる。

「大気中に拡散したり、何かに吸収されたりして多くの光子が途中で失われてしまう。送信先に辿り着く確率はおよそ1000万分の1だ」と、ツァイリンガー氏は説明する。

 このため、ノイズとなる背景光の中から必要な光子を“発見”できる検出器を用意できるかどうかが実験の成否を分けるカギになる。研究チームは以前にも、144キロ離れた場所から送信されたもつれ合い光子を検出したことがあるが、そのときは光子対の片方しか検出できなかった。

 しかし、「Nature Physics」誌で先週発表された今回の研究では、ツァイリンガー氏の研究チームは検出器の感度を上げることに成功している。送信された光子対を両方とも特定の1カ所で受信することが可能になったのだ。

 次の目標は、もつれ合った光子対を双方向で送信することだ。それが実現すれば、遠隔地にいる仲間同士が、暗号化した情報を衛星経由でやり取りできるようになる。

 SF作家としていくつも賞を受賞している未来学者のロバート・J・ソウヤー氏は、“量子メッセージ”が実現して真っ先に恩恵を受けるのは電子商取引だと考えている。ネット上での通信販売では、データを暗号化して送受信しないと情報が盗まれてしまうからだ。

 しかし、地球規模で行われる暗号データの送受信もほんの始まりにすぎない。「理論上、もつれ合った粒子同士はどんなに離れていても相関関係が切れることはない」とソウヤー氏は解説する。もつれ合い粒子を利用した星間通信が実現する可能性もあるのだ。

 一方、ニューヨーク州イサカ在住の物理学者であり、SF作家でもあるカール・フレデリック氏はソウヤー氏の意見に懐疑的であり、もつれ合い粒子を実際の通信に利用できるとは思っていないようだ。

 もつれ合い光子対の状態変化の行方は、サッカーの試合前に行われるコイントスのように偶然に支配される面が多いという。通信の両端で“同じ面が上になる”可能性ももちろんあるが、基本的に結果はランダムに決まるのである。「結果を制御できないのなら、意志を伝えるメッセージの送受信に使うことはできない」と同氏は指摘した。

 これに対し、オレゴン州ユージンのSF作家ジェリイ・オルション氏は電子メールでのインタビューに対し、フレデリック氏とは異なる次のような見解を話してくれた。

「事前に通信規約を決めておけばいい。10分の1秒で光子の流れを変えれば“点”になり、10分の2秒なら“ダッシュ”になる。このようにすれば、モールス信号方式でメッセージを送信できる。もう少し技術が進歩すれば文字メッセージの送信が可能になり、さらに進化すれば音声や映像のやり取りも実現するかもしれない。暗号化の方法が適切であれば、複合的なメッセージをリアルタイムでやり取りすることも不可能ではない」。

Richard A. Lovett for National Geographic News

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