霊長類の脳が巨大化した理由に新説
2009年7月1日(水)16時21分配信 ナショナルジオグラフィック
5400万年前の霊長類、イグナシアス・グレイブリアヌス(学名:Ignacius graybullianus)の頭骨。長さ4センチほどの頭骨がCTスキャンされ、脳の3次元モデルが作成された。その結果、この動物は嗅覚を頼りに暮らしていて、視覚は未発達だったことが判明した。 後の霊長類の脳が巨大化した要因は、木から木へ安全に跳び移るために優れた視覚が必要になったためかもしれない。Photograph by Eric Zamora/University of Florida [ 拡大 ]
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撮影されたクルミ大(長さ4センチ)の頭骨は、太古の昔に絶滅したイグナシアス・グレイブリアヌス(Ignacius graybullianus)という動物の化石である。ヒトの最初期の祖先の近縁種と考えられており、恐竜の絶滅したあと1000万年以内に地球上に姿を現した。
フロリダ大学の古脊椎動物学者で研究論文の共著者ジョナサン・ブロック氏は、アメリカのワイオミング州で25年ほど前に発見された化石を、「知る限りで、最も完全な形を留めている初期霊長類の頭骨」と評している。
頭骨の欠損部がきわめて少なく年代も古いことから、初期霊長類の研究には最良の素材であると研究チームは考えている。ただし、今回の研究から導き出された結論を立証するためには、さらに古い年代の霊長類化石が必要になるという。
まずチームは、イグナシアスの頭骨の詳細なX線画像を1200枚以上撮影・統合して脳の3次元モデルを作成した。その結果、イグナシアスの脳が極めて小さかったことがわかった。現生の霊長類の中で最小とされている脳と比べても、2分の1から3分の2ほどしかなかったのである。
樹上で採集生活を送るにはその程度の大きさで何の問題もなかったようだ。イグナシアスの歯は果実を主食としていたことを示しており、鉤ツメや柔軟な関節も樹上生活に適している。
ただしこの事実は、「樹上で果実を探し回るために霊長類の脳は巨大化した」という説と矛盾してしまう。イグナシアスの脳は巨大化する前の段階にも関わらず、既に樹上で生活していたからだ。では、イグナシアス以降の霊長類はどのようなきっかけで大きな脳を獲得したのだろうか。
イグナシアスは木の枝によじ登る動作は可能だったが、木から木へ安全に跳び移ることは不得手だったようだ。通常の霊長類の場合、長い後肢や大きな内耳器官(平衡感覚を司る)、そして強力な視覚情報処理能力がなければ、そのような跳躍を行うことはできない。
しかし作成された3次元モデルでイグナシアスの脳を調べたところ、嗅覚は優れていたが、視覚は未発達であったことが判明した。
カナダにあるウィニペグ大学の古脊椎動物学者で今回の研究を主導したメアリー・シルコックス氏は次のように説明する。「イグナシアスは嗅覚を頼りに暮らしていた。視覚情報処理能力が高度に発達した現生の霊長類とは違う。霊長類が木から木へ安全に跳躍できるようになるためには視覚の発達が欠かせないが、それは脳が十分に発達してからのことだ」。
この研究結果は先週、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌のオンライン版で発表された。
Charles Q. Choi for National Geographic News
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