石器の熱処理、定説より5万年早い?
2009年8月14日(金)16時52分配信 ナショナルジオグラフィック
考古学者のカイル・ブラウン氏が、熱処理した岩石から古代の武器のレプリカを作っている。 同氏の研究チームが、矢じりなどの熱処理された石器を南アフリカで発見した。2009年8月に発表された調査結果によると、火を使った道具作りは定説より5万年ほど早く行われていた可能性があるという。Photographs courtesy Science/AAAS [ 拡大 ]
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火を使った道具作りは約2万5000年前のヨーロッパで始まったと考えられてきた。しかしその定説に反し、今回の発見場所は現在の南アフリカに当たる地域だ。石器に使われているシルクリート(silcrete: 硬い珪質の皮殻)は加熱すると薄片状に割れるため、切れ味鋭い刃物など、武器や良質な道具の素材となる。
一部の石器には持ちやすいように柄が取り付けられており、獰猛なアフリカスイギュウからメクラネズミなどの小動物に至るまで、さまざまな獲物の狩猟や食肉処理に使用されていたとみられる。この研究論文は8月14日発行の「Science」誌に掲載されている。
研究チームのリーダーで、南アフリカにあるケープタウン大学の考古学者カイル・ブラウン氏は次のように解説する。「優れた火気制御技術は、当時の人類に高度な知性が備わっていたことの証だ。人類がほかの動物とは違う“人間らしさ”を手に入れた分岐点は、この頃にあったのかもしれない」。
「当時の人類は従来の推定よりかなり知能が高かったのかもしれない。彼らは一般的な原始人像とはかけ離れており、野蛮で目的もなく荒野をさまようでもなく、生存が運任せだったわけでもない。決して未開人などではなく、より良い地を求めて植民していた可能性もある」。
ブラウン氏らは研究の一環として、当時のアフリカ人が行っていた石器作りの工程を再現し、加熱したシルクリートは薄片状に割れ、光沢のある赤色を帯びることを確認した。
このような職人技には“加工後になにが起こるかを読む”能力が必要であり、それこそ高度な知能が備わっていた証拠だとブラウン氏は考えている。薪を集めて火をおこし、その火を使って岩石を加工した後、天然接着剤を使って柄を取り付ける、という一連の工程を踏まなければ最終的な成果は得られないからだ。
「これほどの高等技術は、言語がなければ次世代に伝えることはできなかっただろう」とも同氏は話す。
しかし、ニューヨークにあるストーニーブルック大学の古人類学者ジョン・シア氏はこの考えに懐疑的だ。「初期人類から現生人類へと進化する過程に、何か両者を区別する分岐点のような出来事がないか、多くの科学者が必死になって探している。ただし、重要なのは“推測”ではなく“証明”だ」。
そのためにはまず、現生人類より前に南アフリカに生存していたさまざまな人類が、“岩石の熱処理”を行っていなかったことを立証し、明確な分岐点を示さなければならない。
しかし、今回の研究には良い面もあるとシア氏は考えている。アフリカに熱処理された石器がほかにも存在すると考えた科学者たちが、活発な捜索活動を行うことが予想されるからだ。
今回発見された道具は、文化が爆発的に発展した時期に作られたとみられている。ちょうど、過酷な氷河期が終わって人口が徐々に回復していたころのことだ。
研究チームのリーダーを務めたブラウン氏によれば、南アフリカの遺跡で当時暮らしていた人々は、貝殻ビーズなどの装飾品をデザインしたり、黄土をすりつぶして作った顔料でボディペイントや洞窟壁画の作成を行っていたことが確認されている。「岩石の熱処理もそういった多くの技術の1つだったのかもしれない。それらの技術を持ち合わせていたからこそ、アフリカ以外のさまざまな地域に進出し、各地の環境にも適応できたのだろう」。
これに対し、前出のシア氏は次のように話している。「熱処理を行って道具の質が向上するとは限らない。逆に破損しやすくなることもある。つまり、これだけのものを作る技術があったことを誇示するための単なる“見せびらかし”用だった可能性もあるのだ。また、あえてもろい矢だけを持って森に入り、“道具に頼らない優れたハンター”であることを誇示するようなことがあったのかもしれない」。
Christine Dell'Amore National Geographic News
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