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海外総合

漁業を変える? 回遊する巨大な生簀

2009年8月19日(水)16時53分配信 ナショナルジオグラフィック

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 プエルト・リコ沖で沖合養殖用の生簀“アクアポッド”のメンテナンスが行われている。アクアポッドには、遠隔操作できるプロペラが装着されたタイプもある。 野生の魚群のように外洋を回遊できる自律制御の生簀は、養魚業をまったく新しい形に変えるかもしれない。Photograph courtesy Ocean Farm Technologies [ 拡大 ]

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 将来、魚の養殖産業は、現在とはその姿を大きく変えているかもしれない。自律航行する巨大な生簀(いけす)が野生の魚群のように外洋を回遊したり、あるいは収穫まで放し飼いされて自由にエサを探し回ったり。そんな養殖法を実現する遠隔操作可能な生簀が実用段階にまできているという。

 動力付きの生簀を使用すれば、環境に負荷をかけることなく状態の良い魚を大量に養殖できる。そしてそれこそ、いま求められている養魚場のあり方だ。

 世界の人口が増加の一途を辿る中、水揚げされた海産物は瞬く間に消費されており、野生の魚種資源は深刻な枯渇状態にあると専門家は警告している。 国連の食糧農業機関(FAO)によると、世界のすべての漁場の70%は現状の漁獲量を辛うじて維持できる程度の状態か、乱獲あるい枯渇の状態にあるという。

 養魚業は現在、世界で消費される魚の約半分を供給しており、今後もさらにその役割は拡大していくと考えられる。FAOの予測によると、世界の海産物の需要は2030年までに40%も増加するという。

 従来の生簀は通常、海岸に近い穏やかな浅海域に設置されている。天候悪化の影響を受けにくく、給餌やメンテナンスの際もアクセスが容易だからだ。しかしそのような閉鎖的な環境で魚を育てると、病気が蔓延したり、排泄物で水質汚染が起きやすい。したがって魚の健康や水質を維持するためには、生簀の設置場所を定期的に変える必要がある。

 その一方で、生簀を深い深度の沖合に設置すれば、海水の循環が良くなって水質がきれいに保たれるほか、天然のエサも供給され、味の良い養殖魚を出荷できるようになる。しかしこのタイプの生簀は外洋の厳しい環境に耐えうる構造でなければならない上、管理者が容易にアクセスできないという問題点もある。そこで求められるのが、自律的な高性能生簀だ。

 アメリカにあるマサチューセッツ工科大学(MIT)の沖合い水産養殖工学センターで研究を指揮するクリフ・ガウディー氏は、その要求を満たすため、自力で移動できる生簀を製作している。

 新しい生簀のベースは、アメリカ、メーン州に拠点のあるオーシャン・ファーム・テクノロジー(OFT)社が開発した“アクアポッド(Aquapod)”だ。亜鉛めっき鋼の金網と、ビニール被膜の三角パネルを球形に組み上げたこの沖合養殖用の生簀に、ガウディー氏は直径2.4メートルのプロペラを2つ取り付け、ボートの上から容易に操縦できるようにした。アクアポッド自体の直径は8〜26メートルに及んでいる。

 この生簀なら、ボートでけん引することなく設置場所のローテーションを行うことができる。このような自律制御の生簀は、養魚業をまったく新しい形に変えるかもしれない。

 例えば、適切な海流に乗って野生の魚群のように外洋を回遊することも考えられる。養魚場が密集している沿岸部では、排泄物などを原因とする水質の悪化が問題となっているが、そこから遠く離れて飼育すれば、状態の良い養殖魚をより多く生産できるはずだ。また、太陽や波を源とする再生可能エネルギーを利用すれば動力を自給できる可能性もある。

「魚群のように海流に乗って動き回れば良いんだ。その方が環境負荷をかなり抑えられる。移動式の養殖へと移行していくのが自然な流れだと思う」とガウディー氏は話す。

 マサチューセッツ州に拠点のあるウッズホール臨海実験所のスコット・リンデル氏は、養殖魚を飼い慣らすというまったく異なる方法を模索している。

 同氏の研究チームは昨夏、球状の沖合養殖用生簀アクアポッドを半分にした“アクアドーム”をマサチューセッツ州バザーズ湾の海底に設置した。生簀には計460キロのブラックシーバスを放し、スピーカーがエサの時間を知らせたときには寄ってくるよう5週間にわたって訓練した。

 以前に地上の水槽で行った実験では、魚は音とエサを関連付けるだけでなく、最大4週間もその関連性を記憶することが証明されている。

 訓練の後、海底のアクアドームは開け放たれ、ブラックシーバスたちは放し飼いの状態になった。周辺に広がる自然環境の中で隠れたり、エサを探し回ったりすることもできるが、エサを知らせる音が鳴ると生簀に戻ってきたという。「1週目の首尾は上々だった。魚たちは生簀を自由に出入りしつつ、エサを知らせる音にも反応していた」とリンデル氏は説明する。

 しかしその後すぐに問題が発生した。4〜5キロサイズのアミキリという肉食魚が群れでやって来たのである。すぐにドームを発見し、ブラックシーバスを狙って昼夜を問わず取り囲むようになったところ、バスたちは状況を察知し、生け簀の外部で身を隠してしまった。

「音を鳴らしたり、実際にエサを撒いても生簀に戻らなくなった。わざわざ危険を冒したりはしないということだ」とリンデル氏は振り返る。

 しかしそれでも、音を使った方法は有効だと同氏は信じており、カレイやコビア(和名:スギ)といった獰猛な魚種であればもっと良い結果がでるという。それが実現すれば、拡大し続ける世界の海産物需要をまかなう手段が1つ増えることになる。

Brian Handwerk for National Geographic News

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