ヨーロッパ最初の農耕民は移住者だった
2009年9月4日(金)17時15分配信 ナショナルジオグラフィック
先史時代の古人骨に紫外線を照射している。研究者が手に持つなどして表面に付着した新しいDNAの痕跡をこのようにして消さなければ、正確な分析結果は得られない。 これらの骨を分析した2009年9月発表の研究は、ヨーロッパ最初の農耕民族は遠くからやって来た移民だと結論付けるものであった。Photograph courtesy Joachim Burger/Science [ 拡大 ]
-PR-
ドイツにあるマインツ大学(ヨハネス・グーテンベルグ大学)の分子考古学者ヨアヒム・ブルガー氏は電子メールでの取材に対し、「南東ヨーロッパで農耕を営んでいた民族が数世代をかけて中央ヨーロッパにすっかり移り住み、その文化や家畜などすべてを持ち込んだのだろう」とコメントしている。
ドイツやリトアニア、ポーランド、ロシアで発掘された古代の狩猟採集民族と初期農耕民族の古人骨から遺伝物質を採取し分析した結果、このような結論が導き出されたという。
農耕文化は約7500年前に急拡大し、西はフランス西部あたりにまで伝わったと一般には考えられている。
今回の研究成果は、最後の氷河期が終わった約1万年前にヨーロッパに定住した狩猟採集民族が同地域最初の農耕民族に転身したとする昔からの通説と相容れないものだ。この通説はおそらく、狩猟の遠征中に農耕の様子を観察したか近隣の民族から学んだ結果そのような転身が起きたというのが発想の元になったのだろう。
ブルガー氏の研究チームは、狩猟採集民族と初期農耕民族は当時まだ隔絶した状態で生活していたことを突き止め、9月4日発行の「Science」誌で発表した。「両者の間に“文化”の交流はあっただろうが、遺伝子分析の結果を見る限り、少なくとも当初は“血”の交流はなかったと思われる。彼らは異なる人種で、狩猟採集民族と農耕民族という2つの社会が並立していたということだ」と同氏は解説する。
研究チームは両者の古人骨を次のように区別した。8000年以上前、つまりヨーロッパで農耕が始まる前のものや、矢じり、クマの歯の首飾りといった狩猟に関係する遺物が周囲で見つかったものは狩猟採集民族に分類し、農耕具や家畜の骨と一緒に発見されたものは農耕民族に分類したという。
そしてそれらの古人骨から採取した遺伝物質と現代ヨーロッパ人の遺伝子を比較したところ、ある謎が浮かび上がった。2つの血統だけでは、現代ヨーロッパ人の遺伝子プールは完成しないのである。
その結果、現代ヨーロッパ人の起源がほとんど解明されていない現状が浮き彫りになった。「別の人種の移住か、遺伝的変異か。とにかく未発見の要素が何かしらあるはずだ」とブルガー氏は言う。
アイルランドにあるユニバーシティ・カレッジ・コークの考古学者ロン・ピンハシ氏も同意見で、今後さらに別人種の移住の痕跡が発見される可能性があると考えている。同氏は今回の研究を受けて、「現代ヨーロッパ人の遺伝子構造は先史時代から繰り返されてきた人種の離合集散で形作られたのではないか。その可能性が今回の研究から見えてきた」とコメントしている。
マインツ大学のブルガー氏は、ヨーロッパ中央部や西部の最初の農耕民族は南東ヨーロッパから移住してきたと考えている。具体的には現在のハンガリー西部やスロバキア南西部あたりだが、彼ら移住農耕民の起源については明確になっていない。
その起源を突き止めようとブルガー氏やピンハシ氏などが参加する別のプロジェクトが動いており、その研究でもやはり古人骨から採取した遺伝物質が使われている。
ブルガー氏によると、ヨーロッパ最初の農耕民族とされる人たちは、ヨーロッパから古代の近東までの広範囲に連鎖的に分布していた大規模な農耕民族に属していた可能性があるという。古代の近東ではアナトリア(現在のトルコ)やメソポタミア(ほぼ現在のイラク)が栄えていたが、農業はこの地域で約1万1000年前に始まったと考えられている。
ピンハシ氏も最近、ヨーロッパから近東までの範囲で出土した狩猟採集民族と初期農耕民族の頭骨を比較した結果、同じ結論を導きだし、8月発行の「PLoS ONE」誌で発表している。「広範囲に分布していたこれらの農耕民族が遺伝的に近い存在だったとするさらなる証拠がもうすぐ得られるはずだ。農耕文化はアナトリア西部からヨーロッパに伝わったことが立証されるだろう」と同氏は話している。
John Roach for National Geographic News
「地球」カテゴリーを公開! 地球内部の世界を覗いてみよう! »
■ 関連コンテンツ
・馬の家畜化と搾乳は5500年前から
・石器人が牛乳と出会ったのはさらに2000年前だった
・骨製フルート、人類最古の楽器と判明
・現生人類がネアンデルタール人を殺害?
・人類の進化を促進した料理という習慣
ナショナルジオグラフィック 文化最新ニュースはこちら »