シャチを悩ませる船の騒音問題
2009年9月11日(金)17時26分配信 ナショナルジオグラフィック
アメリカ、ワシントン州のピュージェット湾を泳ぐシャチの親子。2009年3月に生まれたこの幼いシャチは、同州サンフアン諸島の近くに生息する群れに属している。 2009年9月に発表された研究によると、この個体群は回遊時より採餌時に多くの音を発しているという。しかしこの地域を航行する船の雑音に負けないよう、シャチは音量を上げなければならない状況に追い込まれており、狩りの間にエネルギーを使い果たしてしまうのではないかと研究者が危惧している。好物のキングサーモンが減少傾向にあることもあり、シャチたちは困難な状況に直面している。Photograph courtesy Center for Whale Research via AP [ 拡大 ]
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アメリカ、ワシントン州ピュージェット湾に生息するシャチは鳴き声(コール)とクリック音の2種類の音を発する。これらの音は回遊時より採餌時の方が発せられる回数が多いが、それは集団で狩りをする際に声のやり取りが極めて重要な役割を果たすからである。
しかし、ワシントン州や隣接するカナダのブリティッシュ・コロンビア州の沿岸海域は、ホエール・ウォッチングの小型船から大型のクルーズ客船まで、さまざまな船舶が航行している。
研究チームのリーダーで、米国海洋大気局(NOAA)運営の北西海区水産研究所(所在地シアトル)のマリア・ホルト氏は、「コール交換はシャチにとって極めて重要な行為だが、船の雑音はそれをかき消してしまう恐れがある」と指摘している。
大勢の人が集うパーティ会場では声を張り上げなければ相手に話を伝えることができないが、ホルト氏の研究チームはシャチでもそれに似た行為を確認したことがある。船の雑音に負けないよう、一部のシャチが音量を上げてコール交換を行っていたというのだ。
現在この地域のシャチは、船の雑音のせいで狩りの際の消費エネルギーが増えている可能性があるという。好物のキングサーモンが減少傾向にあることもあり、状況は厳しいようだ。
ピュージェット湾には「南部レジデント」グループと呼ばれる定住型シャチの小群が生息しているが、この個体群は歯が小さく、サケを好んで食べる。同湾を回遊しているほかのシャチと違ってアザラシなどの哺乳類を捕食することはないという。
この群れには、1990年代半ばから終わりにかけて謎の個体数減少が起こっている。元々97頭が生息していたが、その期間に88頭まで減ってしまったのだ。現在は85頭の生息が確認されている。連邦政府はこの状況を受け、2005年に絶滅危惧種法(ESA)に基づいてこの個体群を絶滅危惧種に指定した。
NOAAの米国海洋水産局(NMFS)北西支局のリン・バレ氏は、「確かなことはわかっていないが、サケの減少、毒性汚染物質、船の騒音という3つ要因が積み重なった結果だったのではないか」とコメントしている。
シャチは20〜40頭のポッドと呼ばれる緊密な群れを作る社会性動物であり、各集団はそれぞれ“方言”とも言える独自のコールを使うことが知られている。
研究チームは2007年からワシントン州サンフアン諸島沖で水中聴音機を使って船の雑音を録音している。群れから1キロほど離れた距離で録音を行い、それと同時にシャチが採餌、回遊、休息、あるいは社会的行動のどれを行っているかを10分おきに記録しているという。
調査の途中ではあるが、シャチのコミュニケーションは狩りの際に特に重要であることが判明したという。予備調査の詳細は、カナダのケベック州で10月に開催される国際海棲哺乳類学会で発表される予定だ。
また、鳥を対象とした過去の研究では、周囲の雑音に負けないよう声を張り上げると、酸素の消費量が増えることが確認されている。その結果として代謝率が急上昇し、蓄積されていたエネルギーが使い果たされてしまうのである。
「まだ推測の段階だが、同じ現象がシャチにも起こっているのではないか」とホルト氏は言う。
「ワシントン州周辺の海域を航行するすべての船舶はシャチから約180メートル以内に近づいてはならない」という新しいシャチ保護法案をNOAAは提出しているが、ホルト氏らの研究は法案の根拠となった既存データの妥当性を高めるものだ。現在の法律では90メートルまで近づけることになっているが、この距離ではシャチの行動に影響が出ることが立証されている。
「船舶の規制に力を入れているのは、それが今すぐにできる対策だからだ」とホルト氏は話している。
Christine Dell'Amore in Friday Harbor, Washington National Geographic News
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