温暖化が北米に寒冷を引き起こす?
2009年9月15日(火)17時52分配信 ナショナルジオグラフィック
グリーンランド氷床のすき間を流れる融氷水(撮影日不明)。 2009年9月に発表された研究によると、カナダで採取した古代のコケの分析したところ、グリーンランドの融氷水が北大西洋に向けて急速に流れ込むと、北アメリカが数十年のうちに寒冷化する可能性があることがわかったという。Photograph by James Balog [ 拡大 ]
-PR-
研究チームはカナダのニューファンドランド島から古代のコケを採取・分析して当時の気候を調べた。その結果、過去に北アメリカの東海岸で発生した摂氏数度分の急激な気温低下は、氷河湖の決壊により生じた淡水の大量流入と関係があることが判明した。
この現象が起きた後およそ150年間、現在のカナダ北部からアメリカのノースカロライナ州ハタラス岬にかけて年間を通じて気候が寒冷化し、植物の生育期間が短くなっている。
チームリーダーでイギリスにあるスウォンジー大学に所属するティム・デイリー氏は、「分析の結果、北アメリカの気候は海洋に流れ込む融氷水に非常に影響を受けやすいことがわかった」と話す。
今回の研究では、歴史が繰り返される可能性も示唆されている。現在、グリーンランドの氷床は急速に溶け始めており、北大西洋への淡水の流入が続いている。
最悪の場合、急激に氷が溶けてこの地域特有の寒冷化現象が再び発生することもあり得るという。ただし、「人為的な要因による今日の温暖化の影響は極めて甚大で、強力な寒冷化現象が発生しても簡単に相殺されてしまうだろう」という意見も出ている。
デイリー氏の研究チームが対象としたのは、ニューファンドランド島の泥炭湿地に保存されていたコケで、その年代は8700年以上前までさかのぼる。コケに含まれている2種類の酸素同位体の比率がわかれば、大気温度が時間とともにどのように変化したのかを追跡できる。
気温が低いときには「酸素18」の比率が低下する。酸素18は、広く存在する「酸素16」よりも重い酸素同位体である。そして分析の結果、およそ8350年前に起こった酸素18の急激な低下減少が判明した。
一方で、ほぼ同時期に北方で氷のダムが決壊し、広大な氷河湖がカナダとデンマーク領グリーンランドの間にあるラブラドル海に向けて放出されたことは過去に明らかとされている。
通常、北アメリカ東海岸は暖流のメキシコ湾流が海岸沿いに北上するため、高緯度にあっても比較的温和な気候が保たれている。しかし、当時は1年かからずに氷河湖全体が流出し、北大西洋に巨大な淡水のうねりが押し寄せた。
研究チームは、氷河湖の淡水によって海流の塩分濃度が低下し、深層に沈み込むメキシコ湾流の速度が遅くなったため、北アメリカで急激な寒冷化現象が発生したと結論付けている。
「寒冷化当時のカナダの夏の気温は、現在の秋や春と同じくらいだったと考えられる」と、研究チームの一員で同じくスウォンジー大学のニール・ローダー氏は話す。
なお、グリーンランドとヨーロッパに残されたさまざまな数値も、8350年前の急激な寒冷化を裏付けている。今回の研究は、北アメリカの寒冷化について明確な証拠を提示した初めての研究となる。詳細は「Geology」誌9月号に掲載されている。
研究チームの一員でスウォンジー大学のアレイン・ペロット氏は、「今回のコケのデータをふまえれば、現在の気候モデルは、大量の淡水流入がもたらす気候の振幅や影響期間を過小評価していることがわかる」と話す。
つまり、グリーンランド氷床の融解が続くと何が起こるのか、正確に予測できない可能性があるというのだ。
ただし、一部の専門家からは、「今回のデータだけでは沿岸部に限られた現象の可能性がある」と批判が出ている。
オランダにあるアムステルダム自由大学の気候科学者ハンス・レンセン氏は、今回の研究を受けて次のように話す。「研究対象となったコケの採集現場は北大西洋に非常に近く、当時の寒冷化という気候変動も主に海洋レベルの話である可能性が高い」。
現在、グリーンランド氷床で進行中の融解の影響度について、「過去のような寒冷化を引き起こす可能性はゼロではない。しかし、それほど劇的なものとはならないだろう」と、レンセン氏は話す。
「淡水流入が海流に及ぼす影響よりも、人為的な温暖化が気候に与えるダメージの方が圧倒的だろう。海流の変化が温暖化の程度を多少弱めるということは十分あり得るが」。
Kate Ravilious for National Geographic News
新カテゴリー「地球」第2弾公開!地球が魅せる地形の数々をチェック! »
■ 関連コンテンツ
・グリーンランドの氷河洞 (写真集)
・グリーンランドの巨大氷河崩壊
・温暖化 消えゆく氷河 (動画)
・温暖化、氷河期到来を凌ぐ勢いで進行中
・地球温暖化で幼いペンギンが凍死する
ナショナルジオグラフィック 環境最新ニュースはこちら »