Tレックスの祖先、小型肉食恐竜を発見
2009年9月18日(金)18時26分配信 ナショナルジオグラフィック
新しく発見されたラプトレックス・クリエグステイニ(Raptorex kriegsteini)のイメージ図。2009年9月に発表された研究によると、ラプトレックスは、体の大きさを除いてあらゆる点でT・レックスにそっくりだという。 ラプトレックスはT・レックスよりも数千万年前に生息していたと考えられる。ティラノサウルス類の太くて短い前腕は、従来の学説の想定よりもかなり早くから登場していたようだ。Illustration by Todd Marshall via Science [ 拡大 ]
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「ラプトレックス・クリエグステイニ(Raptorex kriegsteini)」と名付けられたこの恐竜は、1億2500万年前の白亜紀に生息していたと考えられる。研究チームのリーダーでアメリカにあるシカゴ大学の古生物学者ポール・セレノ氏は、「巨大なT・レックスの時代に比べて約6千万年も早い。T・レックスが最初に地上に姿を現したのはせいぜい8500万年前にすぎない」と話す。
ラプトレックスは体長3メートルと小柄だが、大きな頭骨や鋭い歯、短い前腕、足の速さなど、大型化した子孫の主な特徴をすべて備えている。「ラプトレックスが発見されたことで、肉食動物の壮大な進化戦略が明らかになった」とセレノ氏は話す。同氏はナショナル ジオグラフィック協会付き探検家でもある。
セレノ氏によると、体重70キロほどのラプトレックスに襲われた獲物は、引き倒されて強力なアゴで命を奪われ、2本指の前腕でわしづかみにされたという。体重6トンのT・レックスが実践していたと考えられている狩猟とまったく同じ方法だ。
「生物の進化という観点からすると、これは驚異的なことだ」とセレノ氏は言う。体重は100倍近くにも拡大したが、それ以外は実質的にほとんど変わらない。
これは従来の学説に反する重大な発見である。これまでは、T・レックスの太くて短い前腕は比較的後期の産物だと考えられてきた。つまり、「ティラノサウルス類は大型化していったが、前腕は同じペースで拡大しなかった。そのため、特大サイズの体と比較するとその貧弱さが際だった」と推論されていたのである。しかし、小型の段階で短かったとなるとこの説は妥当性を失う。
ただし、ラプトレックスよりもさらにさかのぼるT・レックスの祖先は比較的長い腕を持っていたと考えられている。
アメリカにあるメリーランド大学の古生物学者トーマス・ホルツ氏は、今回の研究を受けて次のように話す。「新しく発見された恐竜は、ティラノサウルス類の進化を解明する上で非常に重要な存在だ。ティラノサウルス類の歴史において、いつどこで前腕が短くなったのか、ずっと謎だった。今後の問いは、“この小さな前腕の用途は?”となる。届く範囲は限られている。おそらく、ティラノサウルス類はまずアゴで獲物を捕獲し、その後で前腕を使ってしっかりとつかまえていたのだろう」。
研究チームのリーダー、セレノ氏は次のように話す。「人間には、生物の進化において必然的に生じるトレードオフ関係を理解するのは難しいかもしれない。人間にとって前腕は何物にも代え難いが、“前腕が無くとも、ティラノサウルスのように体が大きくて、一声で周囲を恐怖の渦に巻き込めれば・・・”といった結論に飛びつきやすい。しかし、こういった考え方は人間の常識から出てくるもので、生物進化に当てはまることはまずない。ティラノサウルス類の場合、長くて重い前腕は相当な重荷となり、獲物を狙うときに必要な機敏さが大幅に損なわれ、かえって邪魔になる」。
今回の研究は、ほぼ完全な状態で見つかった恐竜の骨格に基づいている。しかし、一歩間違えればこのような学術的な成果は生まれなかったかもしれない。この化石は中国で秘密裏に発掘されたもので、アメリカに密輸されてオークションにかけられ、民間の化石収集家ヘンリー・クリーグステイン氏が競り落とした。この話を聞き付けたセレノ氏はクリーグステイン氏を訪ね、本来の科学調査のために化石を寄贈してほしいと頼んだ。
このような経緯から、化石の正確な発掘現場は永久にわからなくなった。それでも、恐竜の骨格が収まっていた岩石の塊から、ほかに魚の骨や二枚貝の殻などが見つかっており、中国北東部、遼寧省の義県にある化石層から出土した可能性が高いことが判明している。
「ラプトレックス・クリエグステイニ」という恐竜の名前は、アウシュヴィッツの生存者である、クリーグステイン氏の父の名前にちなんだものである。化石は調査後に中国北部に返還される予定で、中国の内モンゴル自治区の首府フフホトにある博物館で展示されるという。
「このような化石を密輸業者から守る体制が必要だ。そうでなければ、永遠に姿を消してしまう可能性もある」とセレノ氏は話す。密輸が根絶される日が来ればよいが、セレノ氏としては、とりあえず今回の化石をめぐる一件が、盗掘された恐竜の化石でも保存・研究できるというモデルケースとなることを願っている。「この化石にかかわった全員で勝ち取った成果だからね」。
Rebecca Caroll for National Geographic News
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