欧州連合(EU)の初代大統領(首脳会議の常任議長)にいったい、誰が就任するのか。チェコのクラウス大統領が、EUの新基本条約であるリスボン条約の批准書にいよいよ署名する方向となり、条約は年内に発効する見通しとなった。そして、発効後に誕生するのが、EU大統領だ。
目下の有力候補はブレア英前首相とユンケル・ルクセンブルク首相らだが、加盟国のさまざまな思惑が微妙にからみあい、どの国がどの人物を実際に支持しているのか早計な判断を許さない。支持しているふりをしながら、“敵は本能寺”ということもあるからだ。
ブレア氏の名前を候補として最初に挙げたのはサルコジ仏大統領だ。ところが大統領は仏フィガロ紙との先の会見で「英国がユーロ圏ではないのは問題になるだろう」と述べ、「フランスはブレア反対」の憶測が一気に広まった。
この発言を待っていたかのように、ユンケル氏が仏ルモンド紙で「要請があれば拒否する理由はない」と発言。事実上の出馬表明となり、有力候補として急浮上した。
ユンケル氏はユーロ圏財務相会合の議長だ。英国は1973年にEUの前身である欧州共同体(EC)に加盟したが、ルクセンブルクは原加盟国だ。そもそも英国はドゴール大統領から「トロイの木馬」と呼ばれ、いざというときには米国に寝返るとの理由で加盟を拒否された経緯がある。一方、英国は伝統的に欧州統合に懐疑的だ。
サルコジ氏は、理想的なEU大統領について「強くてカリスマ性があるか、(会議などで)妥協の探究を容易にし仕事を組織だったものにできるか」のどちらを取るのかだ、と問題提起している。
ブレア氏は国際的知名度は抜群だし、カリスマ性もある。米露日中の首脳を相手に国際会議などでひけを取らないのは明白だ。その点、ユンケル氏の国際的な知名度は低い。ユーロの番人としては及第でも、国際会議では見劣りしそうだ。
サルコジ氏とドイツのメルケル首相は、EU大統領の最低条件として「大統領か首相の経験者であること」で一致している。2人はEU首脳会議の前夜にパリで緊急会談したので、「意中の人」でも一致したのかもしれない。
「仏独は実際は自分たちでEUを牛耳りたいから、あまり強い大統領は歓迎しない」(仏外交筋)との指摘もある。
この論理でいけば、サルコジ氏がブレア氏を真っ先に支持したのは、むしろブレアつぶしが狙いだったのかもしれない。英国が非ユーロ圏であることや、EU域内の出入国審査を免除するシェンゲン協定に不参加であることは、いずれ問題になるのは必至だ。そのうえ来年前半には、欧州統合に懐疑的で、ブレア氏のEU大統領就任を阻止する構えをみせている保守党政権が誕生する公算が大きい。
仏独はブレア氏がイラク戦争でブッシュ米前大統領を真っ先に支持したことも忘れていないはずだ。
イタリアなどはブレア支持だ。大きな顔をしている仏独を、ブレア氏を盾にして牽制(けんせい)したいからだ。有力候補がさまざまな思惑から消えた場合、漁夫の利を得る人物が登場する可能性もある。中・東欧はいったい、誰を支持するのか。
4月の北大西洋条約機構(NATO)の事務総長選ではトルコの“反乱”があった。リスボン条約はチェコの抵抗で発効が延びのびになった。加盟27カ国、約5億人を率いる初代EU大統領の人選は、EUの「素顔」を反映したものになりそうだ。