フランスではシラク前大統領がパリ市長時代の架空雇用事件で公金横領と背任で起訴され、ドビルパン前首相の方は、サルコジ大統領らを失脚させようとしたクレアストリーム事件で、虚偽告発の共犯で執行猶予付きの禁固1年6カ月、罰金4万5000ユーロ(約610万円)を求刑されるという異常事態だ。
メディアは連日、1面トップで熱心に報じているが、国民の反応は総じて冷たい。自分たちとは無関係な世界の話だからだ。
特にクレアストリーム事件ではドビルパン氏以下5人に有罪の求刑が出たが、全員がエリート。各自が各自の野望達成と「ライバル」の追い落としで一致したというのが事件の背景だ。事件発生当時の2004年は外相だったドビルパン氏が国連での反イラク戦争演説で内外に名を売り、大統領の座に野心を燃やし始めた時期だ。最大の障害がサルコジ氏だった。
ルクセンブルクの銀行クレアストリームの隠し口座にサルコジ氏らの名があるとして、密告の書簡とリストを予審判事に送った主犯格が、ドビルパン氏の外務省時代の同僚で欧州航空防衛大手EADSのナンバー3に天下りしたジェルゴラン氏だ。
このリストを作成したのが詐欺罪の前科があるレバノン系数学教師。その兄はエリート校の理工科学院(ポリテクニック)出身でEADSの関連会社のトップ。この数学教師の妻はやはり、エリート校の国立行政学院(ENA)出身の財務官。義父もENA出身で国営保険会社会長だ。そして、隣人がドビルパン夫人の妹一家。子供同士は同じエリート国際学校の生徒で、父母会の仲間だ。
この数学教師を信用したのが対外治安総局(DGSE)の局長だったロンド将軍だ。彼は国際テロ組織アルカーイダの資金面の捜査をしており、レバノン系というだけでイスラム教徒とのつながりに期待をかけた。ロンド将軍とジェルゴラン氏は外務省分析予防研究所に在籍したことがあり、ドビルパン氏とも旧知の仲だ。
ジェルゴラン氏はEADSのトップが病死したとき、ロシアのマフィアによる毒殺と信じ込むなど「妄想癖」(外務省元同僚)の評判もある人だ。それぞれが自分の野心実現のために事件に関係したわけだが、リストがまったくの虚偽だったことが判明している。
事件の発端が密告というところは、アレクサンドル・デュマの傑作「モンテクリスト伯」と同じだ。だが、19世紀半ばの発刊以来、世界中に翻訳され、映画化もされるなど大ベストセラーの小説に比べ国民が熱狂しないのは、エドモン・ダンテスのような正義の熱血漢も、影の主人公ナポレオンのような大物も登場しないからかもしれない。
裁判記事を読むかぎり、数学教師が隣人のドビルパン夫人の妹の紹介でドビルパン氏に会ったと証言しても、同氏は「会ったことはない」と否定。登場人物の誰かがウソをついているのが明白な公判が続いた。判決は来年1月だが、どんな巻末を迎えるのか。