【モスクワ=佐藤貴生】モスクワで今年1月に起きた弁護士と女性記者の殺人事件で、捜査当局が殺人容疑で拘束した男ら2人について、ロシアのメディアは6日、過激な民族主義思想が犯行の背景にあるとの見方を相次いで示した。家宅捜索では大量の銃砲類も見つかったとされ、民族主義の暴走を象徴する事件として注目を集めている。
拘束されたのは、ニキタ・チホノフ容疑者(29)と知人の女(24)。モスクワ中心部の路上で1月19日、スタニスラフ・マルケロフ弁護士=当時(34)=と、居合わせたノーバヤ・ガゼータ紙の女性契約記者=同(25)=を射殺した疑い。
同弁護士はロシア軍元大佐に拉致・殺害されたチェチェン人少女の遺族側代理人を務めるなど、人権問題に熱心に取り組んでいた。
連邦保安局(FSB)のボルトニコフ長官は5日、メドベージェフ大統領に逮捕の概要を報告し、容疑者らが「民族的敵意に基づいて9月にも別の殺人事件を起こしていた」と述べた。大統領は「重大犯罪であるだけでなく、社会的反響の大きな事件だ」とし、全容解明を急ぐよう指示した。この様子は国営テレビで放映された。
人権団体「ソバ・センター」のガリーナ・コジェブニコワさんは取材に対し、「民族主義団体は人権活動家のみならず、地方の行政府に対しても抗議活動を行っている」と指摘、政権側にとっても民族主義者が手に余る存在になりつつあるとの見方を示した。
逮捕を受けて、適正な法的手続きが行われるかどうかには懐疑的な意見もある。人権活動家のレフ・ポノマリョフ氏は、「犯行を立証する十分な証拠が提出されると信じたい。捜査当局の怠慢な仕事ぶりはこれまでにも目にしてきた」と冷淡な見方をしている。