今こそ「戦略的臥薪嘗胆」さもなくば尖閣諸島に五星紅旗が翻る【緊急連載 尖閣諸島“開戦”前夜】

今こそ「戦略的臥薪嘗胆」さもなくば尖閣諸島に五星紅旗が翻る【緊急連載 尖閣諸島“開戦”前夜】

尖閣は、いつ中国に奪われてもおかしくない(C)共同通信社

【緊急連載 尖閣諸島“開戦”前夜】最終回

「戦略的臥薪嘗胆、それしかない」

 外務省高官は力なく呟いた。臥薪嘗胆とは大日本帝国が日露戦争で勝利し、遼東半島の割譲を受けながら、仏独露の三国干渉によって割譲を断念させられた際に、臣民が肝に銘じた中国の故事成語である。

 尖閣諸島水域の緊張を1932年夏、盧溝橋事変前夜の北京に擬えたい。両国の対立は爆発寸前、盧溝橋で誰が放ったかいまだに不明の1発の銃弾が両国の全面戦争につながった。しかし、当時と今は両国の力関係は米国の報告にあったように完全に逆転している。日本が唯一頼りにしている米国には尖閣共同防衛の意思はない。中国はその気にさえなればいつ何時、中国が尖閣を急襲、上陸占領されても防ぎようもない。

 昨年来、中国海警局艦艇の尖閣領海侵入が頻発し、尖閣を守る上で最も重要な実効支配さえ揺らいでいる客観状況の下では、中国外相兼国務委員・王毅が謎をかけた「真相不明の一部漁船」の挑発的な操業は盧溝橋第1発の銃弾につながりかねない。

 日本国内に鳴り響く勇ましい進軍ラッパ、戦前もかくや、と彷彿させる“暴支膺懲”論の大音声は尖閣防衛には決してつながらない。中国にいま介入の口実を与えてはならないという過酷な現状を「戦略的臥薪嘗胆」との新語に込めたのである。

 薪の上に臥し苦い肝を嘗めている間に、日本政府はコペルニクス的大転換を図らなくてはならない。まずは彼我の防衛力・戦力の懸隔を認め、その上での尖閣防衛戦略の練り直しに着手するより手はない。

 まずは日中間に領土的係争はないとの政府公式見解を撤回する段階に差し掛かったのではないか。完全に実効支配ができているのならともかく、中国海警局艦船にこれだけ領海侵犯を許している現状では日本の実効支配は既に蜃気楼。そこに固執していてはジリ貧を恐れてドカ貧となった先の敗戦と同じ結末をたどらざるを得ないだろう。

 さすれば日本は中台と協議の場にも就くことができる。その場では特に中国が主張する尖閣棚上げ論に関しては、大胆かつ最新の外交交渉が必要となろう。そして最終的には国際司法裁判所なり海洋裁判所に提訴して現状を固定することを図るしかない。

 自らの力では中国の海上保安力、軍事力の前では「偏に風の前の塵におなじ」かもしれないのだから。いずれにしても現状を続けていけば、尖閣は中国に奪われてもおかしくないという現状認識がいま日本、日本政府に最も求められていることなのだ。

 幸い、中国にとって尖閣は喫緊の重要課題ではない。海洋進出を強める中国には日本列島から沖縄・尖閣、フィリピンと続く第一列島線の中で、中国が何としても統一を目指す台湾、既に複数の基地を設置した南シナ海に比べれば尖閣の政策重要度は低い。

 まだ時間はある。しかし、この貴重な時を無駄に消費してしまえば、尖閣諸島には五星紅旗が翻る日がいつ訪れてもおかしくない。=敬称略(おわり)

(甘粕代三/売文家)

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