東大名誉教授・醍醐聰氏「森友問題はまだ終わっていない」

東大名誉教授・醍醐聰氏「森友問題はまだ終わっていない」

東大名誉教授の醍醐 聰氏(C)日刊ゲンダイ

【注目の人 直撃インタビュー】

 醍醐聰氏(東大名誉教授)

 森友問題はまだ終わっていない。国有地売却や決裁文書を改ざんしたとして告発された財務省元理財局長の佐川宣寿氏らは、大阪地検特捜部により不起訴処分となったが、検察審査会(検審)は「不起訴不当」と議決した。告発人のひとりがこの人。先月10日には、検審の議決に重大な事実があるとして、直接、大阪地検に乗り込んでもいる。一大学教授がそこまでして訴えたかったことは何だったのか。

 ◇  ◇  ◇

――先月10日、同じ告発人メンバーの弁護士らと共に大阪地検を直接、訪問しました。どんな経緯だったのですか。

 検審が不起訴不当を議決した直後の4月1日、私たちは大阪地検に出向きましたが、面会に応じたのは告発とは無関係の事務方でした。不起訴不当の議決を受け、再捜査の担当検事が同月8日ごろに着任するということだったので、その担当検事と直接やりとりさせてほしいと要請したのです。すると、5月頭に「面会しましょう」との連絡がありましたので、10日に再度、地検を訪れたということです。

――地検が要請を受け入れ、告発人と直接やりとりするとは異例ですね。

 こういう問題では、直接の対応者はだいたい事務方や広報担当者です。告発人と捜査担当者が面会したケースは、これまでほとんどなかったのではないでしょうか。検察サイドとしては、「あなたたちの話は聞いてあげたよね」というアリバイづくりのつもりだったのでしょう。

――実際、検察側の反応はどうでしたか。

「この場で私の意見は控える」という返答のオンパレードでした。そうなることは私たちも分かっていました。とはいえ、またとない機会です。予定調和のストーリー通りにさせないために問題の焦点を絞り、「このポイントだけは外さないで捜査してもらいたい」と申し入れました。

――どういった部分に焦点を絞ったのでしょう。

 ひとつは、安倍首相の国会答弁と事実の食い違いです。2017年3月の参院予算委員会で、安倍首相は国有地を8億円値引きしたことについて「(敷地地下の)ゴミを取るのを前提に国有地を1億数千万円で売った」と答弁しました。それならば、実際にゴミを取ったのか否かが問われるはずです。ところが、森友学園の籠池前理事長は国会などで、一貫してゴミを取る必要はなかったと発言しています。佐藤善信前航空局長も、地下埋設物は校舎のくい打ちをする上で支障にならないと発言しています。佐川前国税庁長官は「我々は、国有地売却後、買い手がどう処理したかについては関知していない」としています。つまり、ゴミを撤去したか否か確認していないのです。地検は実際にゴミがあったか否か、撤去したか否かを再捜査でしっかり調べなければ真偽を確かめたことになりません。

――会計法の観点でもおかしな取引なんですよね。

 法に照らして考えると、森友の場合、政府はゴミ撤去工事名目で約8億円という補償金を前払いしていることになります。一種の概算払いですが、国が補償金を事前に支払うことが認められるケースは極めてまれです。認めないというのが大原則で、仮に認めたならば、事後の精算が不可欠。精算しないまま、補償金の残金が先方の手元に残ってはいけないと規定しているのです。

――補償金を事前に払いっぱなしにして終わりなど、あり得ませんね。

 百歩譲って、仮に精算払いなしで契約したならば、相当慎重に精査して撤去工事の費用をはじき出さないといけません。補償金をいったん渡してしまったら、戻ってこないわけですから。

――工事費用を慎重に精査した形跡も見受けられません。

 一部報道で、学園側と理財局のやりとりを残した音声記録やメモが出てきています。それらによると、理財局側が「理事長さんのおっしゃるところまで下げていく」「瑕疵を見つけて国有地の価値を下げていきたい」などと言っている。こんなことが世の中で許されますか。いい加減なやりとりをし、それで精算払いもなし。これが「背任」行為に当たらなくて、何に当たるんでしょう。

――特捜部と検審の主張の食い違いも指摘していました。

 特捜部が不起訴処分を出した際、山本真千子部長(当時)は報道陣に対し、「財務省は森友側から訴えられるリスクがあった。訴訟を避けるため、契約に特約を付けた以上、国有地売却は故意に国に損害を与える意図があったとは認められない」という趣旨の発言をしました。しかし、検審の議決書には「森友の顧問弁護士も被疑者らも国を相手に損害賠償の裁判を起こしても通る見込みは厳しいと認識していた」とある。明確な食い違いです。大阪地検は検審の議決を重く受け止めて、本当に訴訟リスクがあったのかを再捜査しなければ、検審そのものを否定するに等しく、許されることではありません。

――検審の議決書は不起訴不当とはいえ、かなり厳しい内容になっています。

 限りなく起訴相当に近い内容です。文書の結びに「最後に付言すると」という文言が付け加えられ、「背任罪について、本件のような社会的に注目を集めた被疑事件については、公開の法廷という場で事実関係を明らかにすべく公訴を提起する意義は大きい」と踏み込んでいます。

――起訴して裁判せよと言っているように見えます。

 起訴相当と紙一重の文言です。検審メンバーが侃々諤々、議論を戦わせたことがうかがえます。本当は「起訴相当」を議決したかったけど、ごく少数の委員の抵抗でかなわなかった。「不起訴不当」で決着をつけざるを得なかったのではないでしょうか。「不起訴不当」という議決に「検察幹部はホッと胸をなで下ろした」などという報道がありましたが、とんでもない。これは、裁判に持ち込むべきと言っているに等しいです。

――これだけの事実があるのに、大手メディアは醍醐先生たちの指摘をほとんど報じていませんね。安倍政権も「森友問題はもう終わり」と考えているように見えます。

 私は「マスコミと世論の負のスパイラル」が起きていると思っています。マスコミは話題性が落ちてきたということでどんどん報道しなくなる。報道しないから、ますます皆さんの関心から遠のく。我々としては、新しい材料を投げかけているつもりですが、実際の報道は「厳正な捜査を申し入れた」などとありきたりな言葉が並ぶだけ。これでは、「いつもの森友の話か」「もう手詰まりだな」と受け止められてしまうだけです。この負のスパイラルが、森友問題の風化を招いていると思います。

■野党の追及力質問力も不十分

――国会の審議も低調になっています。

 材料が出尽くしているのなら仕方ありませんが、先ほど私が指摘した安倍首相の答弁ひとつとっても、うやむやにできない事実はまだある。安倍首相は「ゴミを撤去することを前提に8億円を値引きした」という趣旨の発言をしたわけです。それならば、「実際にゴミを撤去したのか、していないのか」と、国会でなぜ野党議員はギリギリと追及しないんでしょう。歯がゆい思いをしたことはしばしばです。野党の追及力、質問力も厳しくたださないといけません。

――まだまだ国民の多くは納得していません。

 国民の不信感は根雪のように存在しています。雪解けなど簡単にできないでしょう。その根雪をどうすれば掘り起こせるか。国会と報道、もちろん私たちも一層、努力しなければなりません。

――とはいえ、大阪地検は再度「不起訴」と判断する可能性が高い。そうなると、国民の不信感は根雪のまま残ってしまうのではないでしょうか。

 大阪地検が再捜査で、やはり「不起訴」との結論を出したとしても、世の中は納得しないでしょう。森友問題で疑惑の説明責任を尽くせない、世の中を納得させることができなかったということで、安倍首相が辞めない限り、国民は納得しないのではないでしょうか。

(聞き手=小幡元太/日刊ゲンダイ)

▽だいご・さとし 1946年、兵庫県生まれ。82年、京大経済学博士の学位取得、89年に東大経済学部教授。2010年、同大学名誉教授に就任。専門分野は財務会計。現在は、市民団体「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」共同代表、「森友・加計問題の幕引きを許さない市民の会」のメンバー。

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