新制度開始直前 前代未聞だった「全高長」の導入延期要請

新制度開始直前 前代未聞だった「全高長」の導入延期要請

文科省担当者に要望書を渡す全国高等学校長協会の萩原聡会長(右から2人目)/(C)共同通信社

【アベ政治の食い物に 教育行政の惨状】#4

 政治の意向で導入され、今度も政治の意向で導入延期となった英語民間試験だが、導入ありきで強引に進めてきた結果、経済格差、地域格差の問題が解決できていなかったことが明白になってきた。それゆえ、延期を決めた萩生田文科相の「英断」だとヨイショする政権の御用コメンテーターがいたりする。当の文科相自身、導入延期決定後は「9月に文科大臣に就任して早々、これは止めた方がいいなと思った」と発言している。

 しかし、9月11日の就任会見以来、記者からの質問に対して実施の方向で答え続け、10月8日には「当初の予定通り2020年度から導入することとします」と明言していた。「身の丈発言」を撤回して陳謝した同29日も、導入延期したらどうかとの問いに「ぜひ、これは予定通り実施をさせていただきたいと思っています」とはっきり答えていたではないか。

■文教族の抗議は「ガス抜き」

 第一、「身の丈に合わせて頑張って」という発言自体、格差の存在を前提としたものであり、問題があるから止めた方がいいと思っている人間の口から出るはずのないものだ。導入延期は「英断」どころか、自己保身と政権擁護のためだったとしか見えない。

 一方で、柴山昌彦前文科相ら、導入を推進してきた自民党文部科学部会メンバーが萩生田文科相に抗議の決議文を手渡し不満の意を表明。しかし、その模様を伝える写真に部会メンバーと文科相が仲良く並んで納まっているのを見ると、推進派論者や民間企業などに配慮したいわゆる「ガス抜き」のようだ。現政権下では、官邸レベルの決定に彼らも従わざるを得ない。

 本来は、20年度導入を遮二無二に通してきた推進派の責任こそ問われなければならないはずだ。当初から指摘されてきた格差問題をはじめとする多くの問題点にきちんと対応しようとせず、破綻を招いたのだから。特に意思決定に関わった政治家は、森友・加計問題のように官僚に責任をなすりつけてはいけない。

 結果的に見送りになった「共通ID」発行受け付け開始日の11月1日が新制度のスタートだった。そのわずか50日前の9月10日、「全国高等学校長協会(全高長)」が導入を延期した上で制度を見直すよう求める要望書を文科省に提出した。全高長は全国の国公私立高校の校長が集まる団体であり、高校側の総意を代表する。

 その団体から実施段階で異論が出るのは、おそらく前代未聞。それほどひどい準備不足、議論不足だったのである。

(寺脇研/京都造形芸術大学客員教授)

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