ホルモン入り米国牛肉は延々と日本に押しつけられる宿命

ホルモン入り米国牛肉は延々と日本に押しつけられる宿命

米国牛に罪はないが…(C)ロイター

【トランプに握られた日本人の胃袋】#7

 現在、米国の農家が大苦境にあることを前回書いた。それもトランプの“政策”によってだ。今年の8月、ガソリンにエタノール混合の義務を免除したためにトウモロコシ価格が下落した。さらに中国との貿易戦争で、米国産の大豆や豚肉は中国から締め出され、またTPP離脱によって、牛肉や豚肉の日本輸出も芳しくない。米国の農家や畜産業は収入減で踏んだり蹴ったりだ。

 その農家の反発を恐れたトランプは、日本円で1兆7000億円の補助金で批判を和らげようとしたが、たいした効果はない。このままだと来年の大統領選に向けて、テキサス州など中部・南部の大票田が危ない。

 そこで日本がターゲットになっている。今年秋に大急ぎで妥結した日米貿易協定。そのキモは、日本側に米国産農産物の輸入関税を引き下げさせることであり、まんまと成功した。これで、今まで以上に大量に安い米国牛肉が日本に入ってくる。「シンゾーは友達」とか言って、トランプは米国農家のために新たな市場を創造したのである。

 ここで、読者は素朴な疑問を持つのではないか。「EU各国で拒否され、自国消費者からも敬遠され始めているホルモン剤入り牛肉を、さすがにいつまでも同盟国の日本に押し付けることはないだろう」と。

 しかし、その考えは甘い。米国には、肥育ホルモン剤を大量に使ってでも、早く大きく牛肉を育てないといけないシステムができてしまっているのだ。どういうことかというと、米国の農家はいま、「設備投資の堂々巡り」という宿命を背負っている。

■設備投資の負のスパイラル

 そもそも農家が利益を上げるには、穀物や畜産物の大量生産が必須であり、そのために設備投資が必要となる。ところが農産物が大量生産されると、価格は安くならざるを得ない。それをカバーするには、さらなる増産を目指して新たな設備投資が必要となるという構図だ。つまり、経済的に負のスパイラルである。

 こうした米国農家の「設備投資の堂々巡り」は、50年前にミネソタ大学の経済学者ウィラード・コクランが予言していた。堂々巡りで何が起きるか。余剰穀物に困った米国がそれを外国市場に押し付ける強引な手法や、大量で安い食事の氾濫、レストランや自動販売機の乱立、そして爆発的な肥満の増加という問題が指摘されていた。すべてが当たっている。要するに、いまの食の大量生産システムを止めない限り、今回のような米国の農産物の海外市場への押し付けは今後も延々と続くということなのである。=つづく

(奥野修司/ノンフィクション作家)

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