経済思想家・斎藤幸平氏が警鐘 カリスマ政治とヒーロー待望論の危険性

経済思想家・斎藤幸平氏が警鐘 カリスマ政治とヒーロー待望論の危険性

経済思想家の斎藤幸平氏 (C)日刊ゲンダイ

経済的な格差の拡大が人々を不安に駆り立て、極右ポピュリズムが台頭。その一方では気候変動デモや香港の民主化デモなど、大規模な市民運動も各国で盛んになり、混沌とした時代を迎えている。日本でも「れいわ新選組」などの新しい動きが顕著だ。今後、社会はどう変わっていくのか。編著「未来への大分岐」がベストセラーとなり、注目を集める経済思想家の斎藤幸平氏に聞いた。

  ◇  ◇  ◇

 ――2020年は米大統領選、日本でも解散・総選挙があるのではないかといわれていて、政治の世界が一気に変わる可能性を秘めた一年ですが、政治への失望も深まってます。

 議会制民主主義が機能しなくなっているのが現状です。米国のトランプ大統領は「移民の犯罪が多い」「気候変動問題は存在しない」など、事実と異なることを言い立てて支持を集めている。日本も似たようなもので、SNSのせいで「見たいものしか見ない」人々が増え、気に入らないニュースは「フェイク」扱いしてスルーする「ポスト真実」と呼ばれる時代になっています。人々が、それぞれ違う「現実」を信じている状態では、議論が成り立たず民主主義は機能しません。

 ――嘘で真実を壊そうとするリーダーの跋扈も目立ちますが。

 例えば、トランプの支持率が下がらない理由は、「偉大なアメリカをもう一度」という彼の呼びかけが、つらい現実を否認してくれるからです。日本で安倍政権を強く支持しているのも、高度経済成長期やバブル時代を覚えている中高年の男性です。日本が輝いていた時代への郷愁と、今の生活を失うかもしれないという「恐れ」が、反中・嫌韓の排外主義を生んでいる。自分だけがよければいいというエゴが長期政権を支えています。

日本でグレタ批判が起こるわけ

 ――「今だけ」「自分だけ」よければいいという刹那的な発想は、目先の利潤を追求する資本主義と非常に相性がいいですよね。

 そこが問題です。資本主義の歪みは、格差拡大や環境破壊など見える形で表れている。にもかかわらず、自分だけが生き残れればよいと競争に走り、資本主義にしがみつこうとする人が増え、分断が深まっています。気候変動への対応を訴えるスウェーデンの環境活動家・グレタさんへの批判が、日本で多いのも同じ理由でしょう。彼女が正しければ、地球環境を破壊する資本主義を見直し、今の暮らしを抜本的に変えなくてはならない。自分は逃げ切れるという世代は、変化を恐れ、ヒステリックな反応を見せているのです。

 ――しかし、グレタさんがたった一人で始めた抗議活動が、わずか1年で世界中に広がり、数百万人がデモに参加するようになりました。

 長期的に見れば、この流れは止められません。気候危機は予測以上に急速に深刻化していて一刻も早い対応が必要です。ここでどう選択するかで人類の未来が決まる「大分岐」だからこそ2020年は重要な年です。トランプが再選されれば気候変動への取り組みが4年も遅れてしまう。

 トランプは気候変動が起きているのを知ってて否定しているし、GAFA(巨大IT企業)はわざとフェイクを蔓延させる。資本主義にとって気候変動対策は障害でしかなく、格差是正を求める民主主義も形骸化してくれたほうが好都合だからです。資本が優先するのは、地球や人権ではなく、利潤です。だからこそ、民主党のサンダースらは気候変動対策と格差是正を組み合わせたグリーン・ニューディールを掲げているのです。

■左派ポピュリズムが挑む資本主義


 ――日本でも、経済格差の是正を掲げた「れいわ新選組」が、2019年の参院選で台風の目になりましたが……。

 山本太郎代表が貧困や障害者問題の現場に足を運んで当事者を候補に立てた点が「れいわ」の画期的なところでした。現場の声を重視し、運動の声を政治にくみ取る姿勢が新しい。ただし、れいわが大衆を巻き込んで左派ポピュリズムの核になり得るかは未知数です。現状では山本代表一人に頼るカリスマ政治になりかねません。日本は主体的に政治に関わろうという意識が低いため、ヒーロー待望論が起こりやすいのですが、それは危険なのです。上からの改革は既存の制度内での対応になり、1%の人々への利益誘導とセットになりやすい。重要なのは下から支える運動で、サンダースも自身のカリスマ性というよりは、草の根運動に支えられています。

 ――社会運動が先にあり、運動と連帯する政治家がリーダーに押し上げられたのですね。

 選挙に負けて英労働党のコービンは辞任したけれども、社会運動は継続し、運動と政治をつなげる仕組みがあれば、また新しいリーダーを育てて現場の声を届けることができる。れいわの場合はまだ山本代表が社会運動を育てている段階です。人々を巻き込んだ政治ができるかはこれからが勝負。左派ポピュリズムが民主主義を壊すという批判もありますが、民主主義が機能不全に陥っているのは、資本主義が格差や環境問題を深刻化させている一方で、人々の不安を排外主義的な右派ポピュリズムが利用しているからです。左派ポピュリズムはむしろ民主主義を復興するために、資本主義に挑んでいる。「大分岐の時代」には、資本主義そのものを問い直すことが最重要なのです。

 (聞き手=峰田理津子/日刊ゲンダイ)
▽さいとう・こうへい 1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。フンボルト大哲学科博士課程修了。2018年度ドイッチャー記念賞を日本人初、史上最年少で受賞。

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