【緊急寄稿・宮田律】「米国に死を!」中東海域に向かう自衛隊の今後

【緊急寄稿・宮田律】「米国に死を!」中東海域に向かう自衛隊の今後

ソレイマニ司令官(AP=共同)

米トランプ政権は1月3日、イラク・バグダッド国際空港に到着したイラン革命防衛隊の精鋭である「クッズ(エルサレム)部隊」のガーセム・ソレイマニ司令官をドローンによるミサイル攻撃で殺害した。トランプ政権によるドローン攻撃は、アフガニスタン、イエメン、ソマリア、シリア、イラクなどで行われ、ISやアルカイダなど米国に敵対的な武装集団・過激派の指導者、メンバーを殺害してきた。ドローン攻撃は、裁判を経ずに大統領の独断的裁量で、また他国の主権を侵害して行われるもので、国際法でもまったく許容されない。

 ソレイマニ司令官は、1979年に革命防衛隊の創設時に入隊したが、革命防衛隊は文字通りイラン革命を内外で守る任務を担う、イスラム共和国体制に忠実な軍隊である。イランでは王政時代からの軍隊も存在したが、革命の指導者たちはより信頼を置ける軍隊として革命防衛隊を発足させた。革命防衛隊に入るには、身辺や信条が徹底的に調査され、体制のイデオロギーに懐疑的な人物の入隊は認められない。

 革命防衛隊は1980年、サダム・フセインのイラクのイラン侵攻によって始まったイラン・イラク戦争でも戦闘の前面に立った。また、イランは1982年にイスラエルが侵攻したレバノンへの革命の輸出を考えるようになったが、そこで革命防衛隊は親イランのシーア派組織のヒズボラを積極的に支援し、武器を供与して訓練を施した。ヒズボラは、イスラエル北部にロケット攻撃をしかけたり、イスラエル兵を誘拐したりして、米国最大の同盟国イスラエルの安全保障上の重大な脅威となっている。

 さらに、2014年にイラクでISが台頭すると、ソレイマニ司令官指揮下のクッズ部隊はイラク北部の都市アメルリでの戦いに従事するとともに、イラク軍、シーア派武装集団、クルド人勢力に武器や情報を提供し、ISの撤退を実現させた。その他、ティクリート、モスルなどイラク主要都市でのISからの解放に重要な役割を果たしたが、クッズ部隊のイラクでの活動がなければ、イラクはIS支配の下に置かれていただろうという声もあるほどだ。

■イラクからISを撤退させたソレイマニ司令官

 トランプ大統領は、ソレイマニ司令官の殺害を、戦争を止めるためにやったと語ったが、イランのハメネイ最高指導者は、犯罪者(トランプ大統領)には報復が待っていると述べ、これを受けてトランプ大統領はイランが報復ならば、イランの52カ所を攻撃すると警告をした。「52」という数字は1979年から81年にかけて駐イランの米大使館で拘束された人質の数で、トランプ大統領の発想は子供じみているが、司令官の殺害は戦争を止めるどころか米国とイラン戦争の危険性を高めている。

 イランは通常戦争で報復することなく、その報復の舞台となる可能性があるのはイラクで、イラクに駐留する兵力5000人の米軍に、革命防衛隊がイラクのシーア派武装勢力とともに、テロやゲリラ攻撃という形態で報復していく可能性がある。イラク・バグダッドではソレイマニ司令官と、また彼とともに殺されたイラクの武装集団「人民防衛隊」のムハンデス副司令官の葬儀に10万人が参加し「米国に死を!」が叫ばれ、反米感情がいやがうえにも高まっている。

 米国とイランの間で不測の事態が発生すれば、国際社会で孤立する米国はペルシア湾に近い海域に展開する自衛隊に協力の圧力を加えてくるかもしれない。自衛隊の中東海域への派遣は年末の閣議決定で慌ただしく決まったが、ソレイマニ司令官殺害に見られるような後先を考えないトランプ政権に従う空気は国際社会にはない。自衛隊員の安全の確保のためにも、政府は冷静になって派遣の見直しを考えたらどうだろう。

(宮田律・現代イスラム研究センター理事長)

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